SF初志貫徹賞
高野史緒『カラマーゾフの兄妹 オリジナルバージョン』
〈盛林堂ミステリアス文庫〉
受賞の言葉
この度は、センス・オブ・ジェンダー賞の「SF初志貫徹賞」という、未だかつてないタイトルの授与をいただけるとのことで、大変感謝しております。
『カラマーゾフの兄妹』は、ご存じの通り、2012年に第58回江戸川乱歩賞を受賞した『カラマーゾフの妹』の、応募時の原稿です。盛林堂ミステリアス文庫版のまえがきでも言及しましたが、この作品は講談社版よりはるかにSF要素の強いものでした。講談社版の出版に際し、そこを渋られたのです。そればかりか、バベッジ・コンピュータやエイダについても不必要なのではと言われたのでした。さすがにエイダは譲れなかったので、彼女を削るくらいなら今からでも乱歩賞を辞退すると匂わせ、彼女だけは死守しました。講談社版は危うく「男たちのミステリ」みたいな作品になりかけたのです。作品の出来として講談社版には満足していますが、オリジナル・ヴァージョンである『兄妹』にも、それこそ講談社版の妹として、同じくらい愛しておりました。
このオリジナル・ヴァージョンを出版して下さった盛林堂の小野純一さま、そして、この物語の「もう一人の妹」であるエイダを中心に据えた装画を描いて下さったYOUCHANさまにも、この賞の功績があると考えています。
SOG賞の名を汚さぬよう、今後とも精進してゆきたいと思っております。本当にありがとうございました。
高野史緒