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2021年度 第21回Sense of Gender賞 講評

小林深夏(科学魔界・ぱらんてぃあ所属)

逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)

いくつかの賞をすでに受賞しているこの作品は、デビュー作とは思えないくらい重厚なテーマを扱っていて読み応え充分。特にこの作品が出てから始まったロシア・ウクライナの戦争はほぼ同じ場所を舞台としていることもあり、作者インタビューを読むと、今回の戦争について心から嘆いているし、とまどってもいる。作品はけっして戦争礼賛ではないし、むしろ戦争に巻き込まれていく若者たちのとまどいや悩みをリアルに描き出している。特に女性狙撃兵は第二次世界大戦当時ソ連独自のものだったので、とても興味深く読めた。二度とこのようなことが起きませんように。今の戦争が早く終結しますように……

高野史緒『まぜるな危険』(早川書房)

これはもうほんとに「まぜるな危険」な作品ばかり。ロシア文学にこれだけSFの味付けをするなんて、と驚いた。どれもおもしろい。私のお気に入りは「百万本の薔薇」と「プシホロギーチェスキー・テスト」 なぜこの組み合わせを思いつかれたのか、高野さんはほんとに不思議な方だ。旧ソ連には一度しか旅行したことがないのだが、そのときのことをあれやこれや思い出した。読み返せば読み返すほど味わいが濃くなる。まさに「まぜるな危険」 中毒になる可能性あり。

大串尚代『立ちどまらない少女たち─〈少女マンガ〉的想像力のゆくえ─』(松柏社)

副題に「〈少女マンガ〉的想像力のゆくえ」とある。そのとおり導入は有名な少女マンガ「キャンディキャンディ」から書き起こされているが、そこから日本人の持つアメリカの家庭小説の翻訳作品から得られた「イメージ」、日本の少女漫画が描いたアメリカの「イメージ」の変遷、アメリカにおける女性作家による作品の変遷などなど、広がりのある解説が続く。うんうん、とうなづくところもあり、なるほど~、そうだったのか~、と自分の中の感情を整理できるところもあり、なかなかにおもしろかった。

暴力とも子『VRおじさんの初恋』(一迅社)

私にとってはとても不思議な作品だった。おじさんたちがVRを利用して女の子の姿でお互いに出会い、親しくなり恋におち恋人同士になる。あくまでもそれは仮想世界限定だったはずなのに、だんだんとそのことが現実世界へと侵食していく。そのジェンダーの揺らぎがとても心地よい、と思った。人を好きになること、好きになってもらうこと、そして大切に思うこと、思われること。そのことに性別なんて関係ないよね、と後押ししてもらえる。このSOG賞に関係しなければ、私は全く気がつかなかった作品だ。視野をぐぐっとひろげてもらえた。感謝。

よしながふみ『大奥』全19巻(白泉社)

これは有名な作品だし、内容は皆さん周知だと思う。確かに大作。けれど反対によくこれだけの長さにまとめあげられたものだ、とも思う。設定の男女逆転というところに注目が集まってしまったが、作品の本意はそこにはないと思う。男女逆転設定は、あくまでもきっかけにすぎない。男であれ女であれ、国政をつかさどっていくのは、真摯に国のことを考えていくことには、性別は関係ないのだ。作品の導入口である男女逆転世界は、この世界(江戸時代の日本)を守るために必要な処置であり手段であり、またその世界が滅んでいかないための最善の方法であったのだ。それを決断したのが春日局、つまり女性であるところが、とても興味深い。また最後、家茂と和宮の関係は人と人との信頼関係に性別は関係ない、というメッセージが込められているような気がする。 そしてそれを否定し、なにごとも「男性優位」にもっていこうとする西郷は視野が狭く、明治以降の家長制を象徴するものとして最適。西郷は女性がコワかったんだよね、きっと。

2021年度 第21回Sense of Gender賞 最終選考委員の講評

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