大賞
暴力とも子『VRおじさんの初恋』
〈一迅社〉
受賞の言葉
この度は『VRおじさんの初恋』の受賞のご連絡、誠にありがとうございます。
この作品はVR空間を利用したSNSコミュニティを舞台に、現実では中年男性である主人公が少女のアバターで振る舞うことで得た出会いの物語…といった筋に要約することができます。虚構の世界での出会いに救いはあったのか。あるいは、中年が抱える孤独を突破するのはピュアな初恋だけなのではないか。そういった論理の飛躍を用いて描いたこの物語のテーマは「ロスジェネの悲哀」でした。
そしてそれを描くための骨組みに「現代社会における性の価値感のゆらぎ」を添え、また、物語の肉付けには「性自認を揺さぶるネット社会のあり方」を利用しました。
そういった作品がジェンダー的観点から評価をいただけたことに驚くとともに、そういった評価軸からも響くものを作品内に残せたことを嬉しく思います。
VRSNSにおいて性差を乗り越えた人々による恋愛が日々交わされているのはフィクションではなく、今この時代に実際に起きている事です。それによって救われる人もいれば、より揺らぐ人もいる。性を自由に選べる世界のコミニュケーションは剥き出しになった個と個の接触です。良くも悪くも。
喜びと悲しみは同じ泉より現れる。
この作品は基本的に善悪も道徳も論じません。ただ主人公がそこにいてそういう行いをした、という個人の物語として作りあげたつもりです。ナオキあるいはホナミの価値感と、あなたの価値感をすり合わせたときに生じる砂粒に何らかの価値が生じれば。作者としてはそのように願っています。
この度はありがとうございました。
暴力とも子