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2020年度 第20回Sense of Gender賞 講評

立花眞奈美(〈科学魔界〉編集長、主婦、ジェンダーSF研究会会員)

松田青子『持続可能な魂の利用』

ショッキングな第⼀部の始まりに続き、いるよいるよこういう奴とつい頷いてしまうおじさんたち。若くない⼥性でもよく⾔ってくれたと拍⼿をしてしまうお話でした。

いくつかの話がオムニバスのように積み重ねられ、そのどれもが実⽣活でもよくわかるできごとでしたが、やがて彼⼥たちは、おじさんたちへ反撃に出るのです。少⼥や若い⼥の⼦たちは消耗品として扱われ、それよりも歳を重ねた⼥は⾜蹴にしてもいい存在、また⽇本のアイドルは未熟さと処⼥性を求められ、少しでも外れれば卒業という脱退をしなければいけない。また密かに性の対象として扱われている。そんな中に異質なアイドルの少⼥が現れ、怒れる⼥たちを導いていくところに喝采を送りました。

確かに⽇本のアイドル界のみならず男たちの嗜好は世界から⾒てもおかしいと感じるところがあります。なぜ少⼥たちなんでしょうね。そこにはむろん⼥は⾃分より下のものと⾒ているということがあるからなのでしょうね。

この世のクソッタレおじさんがこれでもかこれでもかと登場して腹⽴たしくなること請け合いです。その解決⽅法が今は⾒つけられないのですが、もしこの本のような解決⽅法しかないとしたらもうディストピアなのかもしれません。

藤野可織『ピエタとトランジ〈完全版〉』

なぜだか事件に関わってしまう⼥の⼦のバディ物語。ちょっと他から外れた⼆⼈が⾼校時代に知り合って、⼀度は離れたけどまた⼀緒に⾏動する。どういうわけだか事件に巻き込まれ、そういう体質なんだと探偵のようなことを始めます、⼝コミで次々と仕事は⼊ってくるのだけど、解決したのか? していないのか?依頼⼈は解決した時に何かを代償に取られてしまうのです。

読んでいた時には気づかなかったのですが選考委員の嶋⽥洋⼀さんから「ホームズではないか? トランジがホームズでピエタがワトソン。途中で出てきて死んでしまう森ちゃんがモリアーティでしょう」とおっしゃるのを聞き、パスティーシュに気づかなかったのはホームズものというにはあまりにも⾎⽣臭い事件ばかり起きていたためかもしれません。

トランジと別れてから医者を⽬指していたピエタは産科医になり結婚もしますが、夫から⼦どもが欲しいと⾔われて衝動的に殺しそうになり、突如現れたトランジとまたバディになって⼝コミ探偵を始めます。それからは急展開としかいえないようなお話になり、⼆⼈は世界中に殺⼈衝動を振り撒いて殺し合いの世界を作ってしまい、⼀緒に世界中を逃げ隠れして歳を取ってくのです。

⾏く先々で殺⼈が起こっても⼆⼈の友情はずっと変わらず、最後まで冗談をいうことができる関係が続くのでした。周りに殺し合いをさせても、⾃分たちは⼿を下すことがなかったピエタはついにトランジのために殺⼈を犯します。夫を殺そうとしたピエタを⽌めることができたトランジも最後は間に合わず殺させてしまうのですが、これは歳をとったということなのでしょうか? ここで気になったのはピエタがよく⽩昼夢を⾒ているような妄想の世界に⼊っていることがあります。突然でてくるのですが、彼⼥はほんとうはそういう世界がよかったのでしょうか? 望むと望まざるとに関わらず、⼆⼈から殺⼈衝動が撒き散らされ、⼆⼈はやがてその原因とされて追われるようになったのです、でも⼆⼈は捕まりかけても偶然か必然か、逃げ出していくのでした。

もしかすると殺⼈衝動を撒いているのはトランジだけで、ピエタはその増幅機だったのではないでしょうか?確かに⼆⼈が離れていた時にはピエタの回りで殺⼈は起きていません。でも産科医とは産む⼿伝いをする医者ですが、実はいろいろな理由で産むことのできない⼥性に堕胎⼿術もしています、それは広義の殺⼈と⾔えなくはないのではないか。ここで思い出したのは曽野綾⼦の『神の汚れた⼿』でした。この世に命を⽣み出す神のような⾏為をする反⾯、まだこの世に⽣まれ出ていない命を消していく。その⼆律背反。曽野綾⼦はそれを「神の汚れた⼿」と呼んだのですが、そうだとすればピエタもトランジの影響を少なからず受けていたように思えます。事件になるような⼈殺しをしていなくても合法的な殺⼈をしていた。

すぐそばで殺⼈が起こっても⾃分たちだけは⽣き残ってきた⼆⼈、⼈類が殺し合いによって滅んでも、彼⼥たち⼆⼈だけは最後まで⽣き残ることができるかのように。

小野美由紀『ピュア』

短編集の「ピュア」から表題作の「ピュア」を。

世紀末を超えた時代、体を改変しなくては⽣きてはいけないくらいになっていて、その上少ない資源を争って戦争ばかりしている時代。が、どういうわけか⼥性だけが⼈体改変により頑強な体を⼿に⼊れ(⾒た⽬も鱗が⽣え、⽛も⽣えています)、男たちはただ労働して⼥に⼦どもを産ませる機関になっています。でも⼥たちは性交時にその相⼿を喰ってしまうのです、また喰ってしまわないと受精できない仕組みになっています。主⼈公はJK、それも⽣まれた時に選抜された兵⼠候補のエリート、⼈⼯衛星の学園に住み勉強をし、時々地上に降りて残っている男たちを狩って性交し⾷い殺して戻ってくる、うまくいけば妊娠して、⼤勢産めば名誉⼥性として兵役免除になって安穏に暮らせるらしい。もっぱら男狩りのことばかりが話題になっている世界、ある意味閉じられた世界と⾔っていいのではないでしょうか。主⼈公のユミはそんな⼥⼦校仲間とはちょっとズレた感覚を持っていますが、友⼈たちと男狩りに出かけ、⼀⼈の男⼦エイジと出逢います。その男⼦は⼆⼈のなり損ないの⼥児を匿っており、この⼦たちを育てたい、助けて欲しいといい、ユミもこっそり⼿伝うのです。なり損ないの⼥児とは先祖返りして産まれてきた⼦たちで、鱗も⽛も持っていません。そして地上に捨てられているのです。

よく男が⼥を⾷い物にするといいますが、このお話では⼥が⽂字通り男を喰い物にします。がその中に異を感じたユミは⾃分の世界から外れていくのです。

殺伐とした世界観の中にちょっとズレた感覚の持ち主がそれまでなかった⺟性や異性愛を覚えていくのですが、⼈体改変した⼥たちが異性愛というか恋愛感情と⺟性愛と⾔われるものを失くしているというのが不思議な感じでした。⼥が⼦どもを産むのは⽣物であればそうなのですが、出産時に何かホルモンが出て⺟性愛と⾔われるものができてくると⾔われています。⼈体改変時にそういうホルモンも出ないようにしてしまったのでしょうか? また昆⾍のカマキリが交尾後にオスを⾷うとは⾔われていますが、それだけの養分を取らなければ卵を産むことができないとか(ま、毎回成功するわけではなく逃げおうせるオスもけっこういるようです)、ということは⼈体改変時にそういう遺伝⼦なども組み込まれたのか?物語には何も書かれておらず、ただ改変したらそうなったとだけです。その辺はどうなのよ? と聞きたいところですが、ユミはJK、多分そんな勉強なんかしたくないと思っているのでしょうね。本来のJKたちが勉強もあるけど恋バナを咲かせるように、本作のJKたちも男狩りの話を咲かせているのです。

この短編集には最後にエイジの物語も載っています。両⽅読むと男⼥の世界のことが理解できます。

白井カイウ/出水ぽすか『約束のネバーランド』

少年誌『少年ジャンプ』に掲載された少年漫画ですが、よくぞ掲載してくれたとまずは集英社に喝采を。また少⼥誌に掲載するには難しいお話だったかもしれないと感じました。似たようなお話を探せば⽥村由美の『7SEEDS』になるのでしょうか? 少し違う気もします。TV アニメや映画化などメディアミックスもされています。

ストーリーは孤児院の⼦どもたちが、⾃分たちは孤児ではなく⻤の⾷事にされるための養殖の⼦どもであることに気づき、そこから逃げ出すという冒険譚であり、貴種流離譚です。孤児院にはママと呼ばれる院⻑とシスターと呼ばれる助⼿が⼦どもたちの⾯倒を⾒ていますが、勉強に関しては厳しく⾏われています。お勉強ができれば良いお家に引き取られることもあるから、ということでしたが、実は頭が良ければ良いほど⾼級⾷材になるということだったのでした。ストーリーはゲームのようにタスクを⼀つずつ解決していって、次へ進んでいくことになります。でもそこにはこんな世界の⼦どもたちを少しでも救いたいと考える⼤⼈たちからのこっそり与えられているヒントもあるのでした。

あまりの⾯⽩さに⼀⽇で⼀気読みしてしまったのですが、単⾏本20冊でなかなか先が読めないお話でした。

私がこのストーリーで⼀番気にかかったのはママであるイザベラです。彼⼥も孤児院育ち、というかこの世界には⼈が住んでいるところはなく孤児院かママやシスターたちの養成所しかないのですが、後半でイザベラの思い出話が出てきます、孤児院で育ち、ある⽇出来の良い⼦だったため、ママ養成所に出荷され、⼤勢のママ候補たちと競いあう毎⽇を過ごし、シスターになって妊娠出産を経験しています。それはいくつもの孤児院のママたちシスターたちは⺟になったことがあるということです。⽗親は誰なのか? そこは出てきていません。ただ膨らんだお腹をいとしそうに撫でているイザベラの姿が描かれているだけです。

そんな彼⼥が⾎は繋がっていなくとも育てている⼦どもたち。その⼦たちは⾷糧として出荷しないといけないのです。そのために彼⼥は⼈知れず出荷を遅らせるような⼿段をとっていました。勉強点数の⾼い⼦は⾼い値が付きます。どこまで点数を取らせることができるのか、そのための厳しい勉強。それでも出荷はしなければならず、点数の低い⼦どもから出荷していたのでした。もしかすると彼⼥はそうやって頭の良い⼦を育てて、いつかそんな世界を覆してくれる⼦どもを育てようとしていたのかも知れません。そんな時に産んですぐ引き離された⾃分の⼦どもレイと孤児院で出会ったのです。⾃分の⼦どもを⻤の⾷糧にしたい⺟親はいないはずです。中国の出来事(これは本に書かれている史実だそうですが)飢饉でもう何もない、となった時に⼦どもを⾷べるということがあったとか、でもさすがに⾃分の⼦どもは⾷べることができず、隣のうちの⼦どもと取り替えて⾷べた、とか。

⼦どもたちの冒険譚なら他にもあるかも知れません。でもイザベラの存在が、⺟親というジェンダーが、私にSOG賞にふさわしいのはこの作品だと思わせました。

2020年度 第20回Sense of Gender賞 最終選考委員の講評

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