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2020年度 第20回Sense of Gender賞講評

森園みるく(漫画家)

小野美由紀『ピュア』

短編集。どれも面白く読めた。 表題作の「ピュア」は脳裏に映像が浮かんできたし、とても良くまとまっていると思った。
『女』だけが進化して『男』を「狩る」=「セックスして食べる」ことでしか『女』が妊娠しなくなった未来。
そんな未来での『女』主人公のユミと『男』シゲルの恋物語は、とても切なくて、ラストでのユミは本当にかっこいい。
『男』を狩る(セックスして食べる)シーンは残酷でグロいというより寧ろエロティックだと感じた。

松田青子『持続可能な魂の利用』

「おじさん」から少女たちが見えなくなって(少女たちからは「おじさん」が見える)
アイドルグループの××が政権に就いて改革を起こす。
そして少女たちは体を持たない存在になる。
以上の設定がとても斬新で、「おじさん」のエピソードがとってもリアルで面白かった。
語り手が次々に変わって主人公の敬子からの視点が一貫していないためか、少々散漫になって分かりにくくなってしまったのでは? と思う。

藤野可織『ピエタとトランジ〈完全版〉』

『最強最強の女子バディ物語』で、『トランジ(ピエタの親友)が名探偵でピエタ(語り手)が助手』と帯に書いてあったので、これは「ホームズとワトソン」みたいな事件解決探偵もの? と思って読んだ。
ところが、ピエタの周りでどんどん事件が起きて(解決もするが)どんどん人が死んでいく話だったので、良い意味で裏切られたと同時に異質で上質のエンターテインメント小説として楽しく読めた。
『トランジ』は中世ヨーロッパで貴族や枢機卿などの墓標に用いられた「腐敗していく死骸の像」の意味なのだから、トランジに『死』が纏わり付いているのは必然で、トランジのせいで世界中の人が死んでいき世界が滅びていく……なんて、壮大な設定ではないか!
文章のテンポが良くてとても読みやすく、最後の方はロードムーヴィーのようでワクワクしたし、作者の最初の短編「ピエタとトランジ」と重なり合わされて終わるラストにグッときた。

白井カイウ/出水ぽすか『約束のネバーランド』

エマを主人公とする孤児院の子供達が脱走して外の世界の『鬼』と戦う物語。
私は漫画家なのに最近の漫画をほとんど読んでおらず(汗)こういう機会がなかったら多分この漫画を読んでなかったと思う。
だからこの機会を与えてくださった小谷真理さんに大感謝!
絵が素晴らしく上手でキャラクターはとても良く描きわけられていて、物語も壮大かつスリリングでハラハラドキドキしながら一気に読める、極上のエンターテインメント漫画だった。
実際に日本だけでなく世界中で未成年が誘拐拉致されて人身売買(中には臓器売買も)されている、という事実があり、現実とも奇妙にリンクしていて興味深い。
この作品が少年ジャンプで連載されていたのは知っていたが、藤本由香里さんご指摘の「少年ジャンプで、こういう形で女の子が主人公になった漫画はこれが初めて」というのは知らなかったので、そういう意味でも主人公の女の子(エマ)が大ヒットした、この漫画の功績は大きいと思う。

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