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2019年度 第19回Sense of Gender賞 講評

立花眞奈美(〈科学魔界〉編集長、ジェンダーSF研究会会員 主婦)

金田淳子「『グラップラー刃牙』はBLではないかと1日30時間300日考えた乙女の記録ッッ」

BL好きとはこのように読むのか、と気づかせてくれた本でした。登場人物の性格から着ているものまで、バスッバスッと刃牙ならぬ金田淳子の拳が叩き込まれていくのは読んでいて楽しいものでした。ただSFかというと要素が乏しく、例えば瀕死の状態になってもすぐに回復するとかSFといえなくはないのですが、惜しいことに元々格闘マンガ、G研はジェンダーSF研究会、SFではないということで今回は見送りとなりました。でもBL好きもそうでもなくても楽しめる一冊です。

北村紗衣『お砂糖とスパイスと爆発的な何か:不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』

まるで教科書のような印象を持ちました。子どもの頃から読んできた名作と呼ばれる小説などに潜む問題を提示されています。そうやって小さい頃から私たちは刷り込まれていったのでしょう。何の疑いもなく受け入れていたことが、実は刷り込みであり、それは作者自身も刷り込まれていたというのは発見でした。いくつもの作品が提示されていて長く章をさけないため、一章一章が短く感じられました。もっと続きを読みたくなり、少し物足りなかったです。でも昔読んだあの本を読み直してみようか、とも感じさせられました。

作者の北村紗衣さんは英文学者として教壇に立たれているということであれば、ジェンダーとは何かをわかりやすく書かれているのも納得しました。

蛙田あめこ『女だから、とパーティを追放されたので伝説の魔女と最強タッグを組みました』全2巻

ライトノベルのファンタジーです。この本の主人公の魔法使いは女だからという理由で組んでいた魔物退治のパーティを追放され、憂さ晴らしに山に向かって最強魔法を放ったら封じ込められていた伝説の魔女を解き放ってしまい、二人でタッグを組んで魔物退治のパーティを組んで活躍していくというお話しです。と簡単に言ってしまうと身も蓋もないことになってしまいますが、ほとんどのTVゲームでは主人公の勇者は男で女は魔法使いや僧侶という補助的な立場、でなければ助けをただ待っているだけ? それもビキニみたいな衣装を着けているか、逃げるのに邪魔になりそうなドレスを着せられて。主人公はパーティを追放される前にも実は女だからということで差別を受けていました。まるで医大の入学試験で男たちは下駄を履かせてもらっていたように。男と女の役割の線引きをはっきりされていて、以前だったら何も感じることなくそんなもんだろうな、と思っていたことがなぜ? おかしくない? そしてそれに対する怒りが吹き出しています。

物語は爽快で大変面白かったのですが、少し足りない感じがしました。続きが読みたい気がします。

澤村伊智『ファミリーランド』

SFマガジンに掲載された短編に書き下ろしを加えた短編集です。一つ一つの物語が身につまされる気がしました。時代は近未来、それに合わせたガジェットも出てきます。各ストーリーは家族の間で起きる事件がまるでホラーのように書かれています。母親と娘、容姿、嫁と姑、介護、見送り。今すでに問題になりかけているものがどのように解決されていくのか、この本ではディストピアにしか感じられない世界になっています。もちろんそれを嬉々として受け入れている人たちもいるのです。自分のことですが娘と息子がおり、姑がおり舅を介護して見送り、今は自分が姑になっています。読んでいて自分はどうなのだろう? また交代で舅の介護をしていた夫に「頼むからお義父さんを殺したりしないでよ」と言っていたことや、義父が言っていた通りの葬儀をちゃんとやってやれなかったことを思い出しました。私たちはもっといい解決方法を見つけることができるのでしょうか?そんなことを訴えてきている気がします。今はいろんな価値観が変わってきているような感じがします。このまま進んでいくとこの短編集のような世界が待っているのではないでしょうか?

清家雪子『月に吠えらんねえ』全11巻

□街という不思議な街というか村のような所に詩人、歌人、俳人たちが集まっています。□とは詩歌句でしかくなのでしょう。そこには主人公である朔くん(萩原朔太郎)や白(北原白秋)たちがわちゃわちゃと住んでいます。牧歌的に見える□街にある日まるで首吊りのような物が現れ、それが屍体のようで屍体ではない、という事件が起きるところから始まります。そしてそんな所にも戦争の気配が迫ってきていて、詩人たちは戦意高揚のための詩を無理にでも書かされ、追い込まれる者も時流に乗っていく者もいるのです。そんな矛盾の中で息苦しく生きていく詩人たちはその世界全体を巻き込んだ事件に巻き込まれていきます。葛藤が葛藤を産んでいき、恐ろしい何かわからないものに囲まれ飲み込まれていく様子は詩人たちの特に朔の心の葛藤が見えるようでした。□街の他にも小説街など大都会の様な描写の街と対照的に田舎の村の様な□街、そこに住んでいる詩人は一段低く見られている様なことも、葛藤を産む原因に思えます。漫画で全11巻、ちょっと長かったのですが、のめり込んで読んでしまいました。BLなのか詩人好きなのか戦争反対なのか、女体化なのか、そしてそのどれもが当てはまるのか。読み始めた時と読み終わった時の印象が全く違ったものになってしまった体験でした。

作者は日本文学の近代詩に造詣が深いとみえ、各詩人の詩が随所に折り込まれており、近代文学に興味のない人には難しく思えるかもしれませんが、それでも読ませてしまう力があると思いました。

候補作5作を読んでセンスオブジェンダー賞に推すのはどれかと迷いました。SOG賞はこれまでも複数の作品に賞を受けてもらっています。一つでなくてもいいのです。でも全部という訳にはいきません。それぞれどれも違っていて選ぶのも大変でしたが、基本は広義のSFであるということで、『月に吠えらんねえ』『ファミリーランド』を選びました。

2019年度 第19回Sense of Gender賞 最終選考委員の講評

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