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2017年度 第17回Sense of Gender賞講評

池澤春菜(声優)

候補作がどれも素晴らしく、選考会は和やかな仲にも、それぞれが自分の推しをゴリゴリと薦め合う丁々発止な時間でもありました。自分にはない読み方や視点を学ばせていただき、大変楽しかったです。選考委員にお声がけ下さったジェンダーSF研究会様、素晴らしい候補作を書かれた作家の皆様、そして選考委員のみなさま、ありがとうございました。

古谷田奈月『望むのは』

一読して、わたしにとってのSOG賞はこれだ、と。

登場人物は、みんな、どこかに「すこしふしぎ」を抱えています。ゴリラだったり、ハクビシンだったり、同性が好きだったり。でもそこに差異はなく、本人も周りも、それぞれの「すこしふしぎ」をそのまま受け止めている。

だからこそ、ジェンダーを描いた作品というには弱いのではないか、との意見もありました。

だからこそ、だからこそ、ジェンダーを描いた作品なのだと、わたしは思うのです。

自分が健康な時、わたしたちはそれを意識しません。鼻が詰まってはじめて鼻呼吸の大切さを知り、小指を捻挫してようやく利き手の便利さを理解する。意識をしないで生きていける、というのは実はものすごく幸せなこと。

『望むのは』が描いたのは、その意識をしない世界でした(つまり、わたしたちがいる世界は、今、病の回復途中)。

そのフラットな視線と、小春の見る15歳の世界のリリカルな美しさ、一つ一つの言葉の心地良さは、体にも心にも綺麗なソーダ水のようでした。

この作品に出会えたことは、今回SOG賞の選考委員をつとめさせていただいたなかで一番大きな喜びです。

溝口彰子『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』『BL進化論〔対話篇〕ボーイズラブが生まれる場所』

とにもかくにも、お疲れ様でした!! この二冊の中に、どれだけの時間と労力が詰まっていることか……。

BLというわかったようでいて、言葉として定義しようとするとどこまでもすり抜けて行ってしまうナンジャモンジャ。それを発止と捕まえて、えいやっと囲い、様々な視点でじっくり観察し、一つの正体を導き出した。大変すぎて誰も挑まなかった分野に敢然と挑んだ、その姿勢や天晴れ。

もちろん答えは人によって違います。わたしのBLはこうではない、そもそも定義する必要があるのか、などいろいろな意見があるとは思います。それでも、この本が見せてくれたBLの一つの顔をベースに、自分なりの考えを突き詰めたり、自分の理想とするBLをもう一度考え直す、そんな指標になる本なのではないかとも思うのです。

客観的で学術的な考察を溝口さんの熱い思いが覆う、突っ走りがちな個人の思いに研究者としての視点が程よくブレーキをかける、そのバランスがとても良かったです。

新井素子「お片づけロボット」(『人工知能の見る夢は AIショートショート集』収録)

ルンバちゃんの活躍を見たいがために、せっせとお片付けをする僕(しもべ)のわたしとしては、大変大変深く頷いた作品。選考委員&ジェンダーSF研の皆様の首も、「わかる!!」と激しい上下動を繰り返しておられました。

人が道具を使うはずなのに、道具に使われる人になってしまう。これはもう男女差なく、みんな思い当たることがあるはず……

白井弓子『イワとニキの新婚旅行』

好き!!!!! すっごい好き!!!!!!!!!!!

白井さんの描く絵の暖かさと説得力、骨の通った人の体の重み、さり気なく描かれた情報量、細部までしっかり考えられた設定、思いや言葉の趣……と、いういつもながらの素晴らしさに加え、今作は何よりご本人の楽しんで描いている感が随所にぎゅっと詰まっています。

なかでも「アンドロメダ号で女子会を」は、これまた満場一致で「わかりみ!!」のヘッドバンキングでした。

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