大賞
菅浩江『誰に見しょとて』
〈早川書房 Jコレクション〉
受賞の言葉
このたびは、栄誉ある賞をいただき、ありがとうございました。
ジェンダー問題についての勉強をほとんどしていませんので、実は恐縮しております。
『誰に見しょとて』は、化粧とSFの組み合わせはあまり聞かないから今のうちに書いておこう、と思って手がけました。
娘が通っていた幼稚園に綺麗なお母さんたちがたくさんいらしたのも、もしかしたら原因かもしれません。
その頃、女性向けファッション誌の分化形態としてコスメ専門月刊誌が何冊も創刊され、科学用語によって化粧品が宣伝されるようになり、大変興味深いことだと感じました。
正しい知識や解説と地続きに不確定な要素を吹聴し、読者を煙に巻くかのような広告が多かったのです。試験管内でのデータが購入者の肌に反映されるかのように表現したものもありました。テロメアを伸ばして老化を防止、というのは本当だったらノーベル賞モノです。酵素を不活性にして問題を予防する商品と早く排出するために活性化する商品が並び、フォトショップ整形と本物の整形が競い合う、そんな混沌とした、けれどぼんやり見るだけならとても綺麗な世界で、女性たちはうっとりと右往左往するわけです。
ご存じかもしれませんが、私には障害を持つ娘がいて、病気や医学、人の心の不思議について考えない日はありません。もっと自分の生活を「よく」したいのにいろいろな枷がはまった状態の中で、個人個人の欲望の物語を書く……。かなり私怨の入った作品になってしまったのではないかと反省していたのですが、それもまた、今回の受賞で母親としての裏側まで認めていただいたようで嬉しく思いました。
まだお読みになっていない方への宣伝文句としては、「ただの化粧品ガジェットSFで終わらせたつもりではありません」とお伝えしたいと思います。古代から綿々と続く化粧文化が宇宙空間へと続き、手垢の付いた卑弥呼伝説を私なりに解釈した、大きな物語にしたかったのです。喫茶店のおしゃべりから始まる物語が、みなさんをどこまで遠いところへ連れて行けるのかのチャレンジでした。
売れ行きがあまりよくないように感じますので、これを機に、ぜひお買い求めください。
末筆になりましたが、すでにお読みいただいた読者さんたち、選考に携わってくださった見識者のみなさまに深く感謝いたします。
思うようにいかない人生ですが、もう少し頑張ります。どうもありがとうございました。
菅浩江