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2009年度 第9回Sense of Gender賞講評

岡本賢一(小説かき)

売れないSF作家(否、今年こそは売るぞ!)の岡本賢一です。「宇宙塵」経由で94年に朝日ソノラマにてデビューさせていただきましたが、その裏、数日遅れでJUNEに小説を本名で発表していたりします。その後、合計で三本の短編をJUNEで発表しましたがノンケです。割合としては7対3なので、バイでもありません。00年には『それゆけ薔薇姫さま!』という宇宙ヒーロー達をテゴメしまくる外道小説をファミ通でやはり本名で発表し、案の定、顰蹙を買ったり、脅迫状を頂いたり、売れなくて干されたりしましたが、小谷真理様におかれましては新聞にて好意的な選評を頂き、その節は誠にありがとうございました。(しかも日本経済新聞で!)

今回の選考は「センス・オブ・ジェンダーってなに?」っていう、基本から悩みました。誰かに尋ねれば早いのかもしれませんが、「SFってなに?」と同じように、個人的な好みであり、明確に定義できない、するべきではない、しようとしたら口論のすえにつかみあいになるかもしれない問題のような気がします。SFXジェンダーなので、さらに大変です。最終的には、自分はこう思う、と開きなおらせていただきました。

宮部みゆき『英雄の書』

作者のRPG好きがひしひしと伝わる、異世界と現代をめぐる冒険ファンタジーです。自分の兄と、世界を救うために立ち上がる小学五年の妹が健気だったり、マントを翻してさっそうと助けに現れる無頼派のアッシュがかっこよかったりするばかりか、現代ミステリー的な味つけもあり、なんだかもう、てんこ盛りです。はっきり言って、強くゲーム化を希望します。
ただ「小説は宮部みゆきとそれ以外」とまで言われる作者にいまさら更に賞を与えるということは「これぞ、センス・オブ・ジェンダーだ!」でなくてはならないと勝手に解釈し、推しませんでした。

日日日『ビスケット・フランケンシュタイン』

非常に力が入っており、SFがやりたいという気持ちがひしひしと伝わります。ライトノベルのいろんな枠を踏み越えており、これはもう立派なSF。うるさいSFファンにもお勧め。出版社の度量によりますが、続編を強く希望します
ジェンダーに関しても、正面から問題意識を持って取り組んでおり、非常に好感がもてました。

樺山三英『ハムレット・シンドローム』

まずは、よくぞこの本を出した「ガガガ文庫」と称賛します。これはラノベではありません。文学です。
第8回日本SF新人賞作家の描く「魅惑の文体とキャラ、めくるめくマトリョーシカ型メタ世界」です。
いろんな解釈のできる一筋縄ではいかない物語なので、参考書として原作となった久生十蘭の「刺客」と「ハムレット」も読み、皆でワイワイとこの作品について語り合いたいです。読書会希望! 十蘭シリーズでもっと続けて欲しいです。
ここだけの話ですが、へそ無しメイドのヘソムラさんがラブです。

万城目学『プリンセス・トヨトミ』

単純に小説の出来の良さだけで言うなら、この作品が僅差でトップでした。キャラと物語の運びが上手です。広い意味でのSFで、万人受けする作品でもあります。大阪を知る読者には、独特な連帯感によってさらに楽しめることでしょう。
ただ、ジェンダーという視点で言うと、女性読者に配慮はしていても結局は男性むけの話、な感じが強く「この賞にはいかがなモノか?」と疑念を抱き、推せませんでした。

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