野田令子(理学博士)
私は「母と子と渦をめぐる冒険」を含む『海を見る人』を推します。
「母と子と渦をめぐる冒険」を含む『海を見る人』 この作品においてはジェンダーは地球生物の雌雄という枠をはずれ、地球外知的生命体に外挿されています。こういったジェンダー概念の科学的な外挿こそがジェンダーSFとして相応しいと考えます。またこれは直接関係ないのですが、作者は特にジェンダーを意識せずにこれらの作品を書き上げ、結果これほどジェンダーをSF的に考えさせる作品ができたこともまた興味深いです。
『宇宙生命図鑑』は非常に手堅くまとまった、これも地球外知的生命体を描いた作品で、高く評価したいが、肝心の異星生態系の描写が不完全である点、また地球人との搾取関係というありふれた形態になってしまっていること、が私にはジェンダーSFとしての評価が低く思われ、残念ながら外すことといたしました。
『妻の帝国』は折角直感がわかるものとわからないものというジェンダー的な対立を描いていながらそれを「妻」と矮小化してしまった点で残念でした。家族内・性別・血縁のあるなしに関わらず対立が起こっているにもかかわらず、それを夫婦の相互不理解というある意味わかりやすい形で代表させたのは、個人的には残念でした。
『傀儡后』は纏うものが個人を規定する、という感覚的には楽しかったのですが、私には強いジェンダーとのかかわりが読み取れませんでした。
『両性具有迷宮』はこれも大変面白かったのですが、ジェンダーというよりは寧ろ森奈津子というキャラクターの造形に負っている部分が多いように感じられましたので、外しました。