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2002年度 第2回Sense of Gender賞講評

牧紀子(日本SFファングループ連合会議議長)

西澤保彦『両性具有迷宮』は、選考作品の中でもっとも愉快に読めた作品でした。突然女性の身体に男根が現れたとしたら、当然パニックに襲われるはずが、主人公の森奈津子は、これ幸いと楽しんでしまう。わたしとしては、そんなことをしちゃったナゾの宇宙人のことがもっと知りたいと思うのだが、お話は主人公が森奈津子なだけに当然そんなことより、手に入れた男根の利用の方にいってしまう。そこがまたおもしろいのだ。

小林めぐみ『宇宙生命図鑑』は、真っ正面に生殖を取り上げた意欲作。生命図鑑の完成のため惑星に訪れた、猫(正確には、猫型の宇宙人)と神父の登場によって、惑星ジバスの原住民のナゾが明かされることになる。惑星ジバスの文明を調査するためにやってきた主人公トキ乃。彼女を通して、原住民や異星人、そして同じ地球人の男性について語らるが、地球人はダメダメすぎてつらいです。とはいえ、オーソドックスだけどストレートなストーリーには魅力があります。もっと、生命図鑑の他のページもみたいです。

佐藤哲也『妻の帝国』は、いつのまにか、妻が世界を変える中心人物になっている。そして気がつくと夫もそのシステムの中に取り込まれてしっているのだ。ただ、読んでいて楽しみながらも物足りなくなっていったのは、最高指導者である“妻”が、世界を壊し意味をなさないシステムを作ってしまい、どうすることもできないということだった。やっぱりそうなるのは“妻”という、社会的に責任のない立場にいる“女”が作る社会だからなのか。それとも、世の中の人間は皆、何か大きな力に流されはじめれれば止まらない生き物なのか。最後まで読んでも、答えはでない。

小林泰三『海を見る人』収録されている「母と子と渦を旋る冒険」は、真っ黒な空に無数に輝く冷たい星々、そんな数え切れないほどの色とりどりの光点がちりばめられた、暗黒のなかに浮かぶ生物たちの物語。初めて遠くまで新発見を求めて出かけ、ボロボロになりながらも母の元へ帰ってきた少年純一郎の冒険のすばらしさに感動するのは、いかにも我ら人間の感情。“母”なる生命は、やっと戻ってきた息子に対し、あっさりユニットの回収と処理を行い、人類未到の希望の地に向かってオーバードライブにはいっちゃうのだ。

牧野修『傀儡后』(早川書房)は、何重にも仕掛けがされていて、いろんな楽しみのできる作品だと思う。ちょっと未来では、今よりジェンダーの意識が曖昧になっている感じがでていてよかったかな。トランスジェンダーしている人達が、個性として扱われていたりしたのも新鮮な感じだった。それに加えて歪んだ世界、ドラッグ「ネイキッド・スキン」、悪夢、「ドレスドハウス」、D・ランドと麗腐病、ターン・スキンなどなど。なにもかもが混ざり込んでしまったモノやコトが次々と起こる。ほんと、テクノゴシックとはうまく表現されてます。

ほんと、迷いました。
『海を見る人』収録されている「母と子と渦を旋る冒険」が一押しなんですが、短編なので、長編からとすると、『宇宙生命図鑑』か『傀儡后』ということになります。そのどちらかとなると『傀儡后』のほうを推薦します。

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