キャロル・エムシュウィラー『すべての終わりの始まり』
畔柳和代訳〈国書刊行会〉
Carol Emshwiller , The Start of the End of It All
内容紹介(「BOOK」データベースより)
20世紀文学を代表する名匠の初期短篇から本邦初紹介作家の知られざる傑作まで、すべて新訳・日本オリジナル編集でおくる作家別短篇集シリーズ。
〈私がいつまでもともに幸せに暮らせる生き物はどこにいるのか?〉
老人、エイリアン、鳥人間、謎の生き物……
疎外された者たちが探し求める、さまざまな愛のかたち。
唯一無二の奇想作家エムシュウィラー、本邦初の作品集。
おのうちみん(Webデザイナー)
八十歳を超えても精力的に作品を発表しているエムシュウィラーの、日本では初めての単行本。SFの道具立ては最小限だけど、他者(エイリアンとかクマとか男とか)との接触で、語り手(わたし)が変化するという構造はやっぱりSFだ。そして接触の多くがラブとエロスを伴っていながら、非常にあっさりと書いてあるのが心地よい。見てるだけとか、指がふれあうだけとか、それで十分満たされる。というか、満たされることが重要であって、相手が何者かなんていう問題は些細なことだ。
特に気に入ったのが「石造りの円形図書館」。憑かれたように発掘する老婆が見ているのはユートピアからのメッセージなのか、幻覚なのか? 世間の常識は幻覚と断定するだろうけど、同じことを若い娘がやったらどうゆう評価が下されるか? また男性がやったら? 日常にも学問の世界でも黙殺されがちな、「年をとった女」というジェンダーを、いずれわたしも行く付くが故に深く考えさせられる。
タイトルは第三短編集と同じだが、本書は1970年から2005年までの短編集からチョイスされた日本独自の短編集になっている。ただし19篇中12編は2000年以降の作品。そのためか語り手の年齢の高い物が多い。つまりおばさんだったり、おばあちゃんだったりする。そして彼女たちの茶目っ気と包容力にやられます。年をとったらこんなばーさんになっていたいなーと思うのです。
福島かずみ(和装愛好家 コスプレイヤー)
本の帯の、私がいつまでも共に幸せに暮らせる生き物はどこにいるのか? に要約されているように、つまり、人間ってつくづく孤独が嫌いな生き物なのだということです。
他人、家族、動物、異邦人、異人種、エイリアンですら選択肢に入っている。
異性(夫or恋人)同性(友人or恋人)、親や子供、兄弟姉妹に親戚、それでもダメならペット。
その中の一つでも、もしお互いに理解し合い、許し合えるだけの何かがあれば、一緒に幸福に生活したい。
そのための努力と、その結果の喪失と失望、もしかしたら人生はその繰り返しなのかしら? と、ちょっとシニカルになる短編集。