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2006年度 第2回Sense of Gender賞 海外部門 候補作

メアリ・ジャニス・デヴィツドスン『ヴァンパイアはご機嫌ななめ』和爾 桃子翻訳(早川書房)
MaryJanice Davidson ,Undead and Unwed

鈴木とりこ(ジェンダーSF研究会会員、レビュアー)

『ヴァンパイアはご機嫌ななめ』を読んで

 とても楽しかったです。
 こういう小説がまだ健在で、有効なんだなと思うことは、なんだか安心感があります。
 サラ・パレツキーの女探偵「ヴィク」を主人公にした一連のシリーズがありますが、これの現代っ子・女吸血鬼版といった趣で、軽妙な語りと、主人公の適度に打算的なお転婆ぶりが楽しいです。
 サラ・パレツキーのシリーズも、当時の現代っ子の気持ちをとてもよく反映していましたが、本作は、さらに若く、フレッシュで、新しい読者をひきつけるのではないかと思いました。
 ヴァンパイアの超常能力についてもわかりやすく、楽しいエンタテインメントになっていると思います。

 現代人の最大の欲望は「ありのままの自分が突如誰かに見出され、そのことによっていきなりスターになる」ということらしいですが(自分は何も変化することなく、自分の評価だけが変わる)、この主人公の場合も、特に望んだわけでもないのに、突如、力が手に入り、さらに、力を得たということ以外の変化はほとんどないままに、さまざまなものを手に入れていくという、ある種のドリームをわかりやすく体現していて、さらに、男女交合によるオーガニズムへの信仰? なども素直に描かれ、そしてそこに王子様・お姫様譚すら絡めたロマンスとなっており、オンナノコの欲望を全部陳列! といった風情もあって、とても楽しく、また、興味深く読みました。
 それらがあっけらかんと素直に描かれていることには、むしろ好印象を持ちます。とくにいやみを言いたいわけではなく、「なるほどなあ」という印象でした。ハーレクインロマンスまではいかなくとも、「全部のせ」というのか。

 マノロの靴がイイ! という主人公のこだわり、これにはわたしも全面賛成です(フェラガモも)。でも、日本ではアメリカで買うより更にお高いこれらの品々、この作品のように、コーヒー1杯をケチるOLさんが、毎月のお給料で買う、というのと、高級感にさらにずれがあるかもしれません。そのあたりも含めて「アメリカへの憧れ」を80年代と同様に信じるには少し時代が違うかなという気もしつつ、マノロいいよねえ、わたしもほしいなあ、なんて思いながら読みました。

2006年度 海外部門 最終選考作品と講評

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