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2019年度 第19回Sense of Gender賞大賞

大賞
清家雪子『月に吠えらんねえ』全11巻
〈講談社〉

大賞 清家雪子『月に吠えらんねえ』全11巻月に吠えらんねえ(2)月に吠えらんねえ(3)月に吠えらんねえ(4)月に吠えらんねえ(5)月に吠えらんねえ(6)月に吠えらんねえ(7)月に吠えらんねえ(8)月に吠えらんねえ(9)月に吠えらんねえ(10)月に吠えらんねえ(11)

受賞の言葉

この度は、拙著『月に吠えらんねえ』をSense of Gender賞に選んでいただき、誠にありがとうございます。

『月に吠えらんねえ』は詩を中心とした近代文学作品を読んで受けた印象を拡大解釈しまくった漫画です。

主人公の朔くん(萩原朔太郎作品から)は性自認が揺らぎ、肉体も変質を遂げます。

それは女装して自己愛に耽る「恋を恋する人」を書き、詩の中では現実と乖離した観念的女性像を追い求め、近代社会規範の中での「一人前の男性」からの落伍者としての懊悩を生涯持ち続けた、朔太郎作品が内包するジェンダー問題を表したものです。

朔くんを通して萩原朔太郎作品の多面的な面白さをお伝えできていたら嬉しいです。

一方、『月に吠えらんねえ』の物語の柱として文学者の戦争翼賛問題があります。

戦後偉人としての彼らを称揚するにあたり、翼賛詩については極力触れない、あるいは「不本意に、嫌々書かされていた」と変換することが多かったと思います。

実際の彼らの記述を見る限り、積極的に、国のためになると信じて書いていた人も多くいました。

その事実に対し、価値観が180度変わった戦後に嫌々書かされたと漂白し、なかったことにしてきた過程で滅却された、その時作品に込めた彼らの願いや近代文学の帰結を、断罪でも擁護でもなくただ掬い上げてみたい、そうすることで現代日本を照射するものもあるのではと思いながら描いていました。

同じことが作中のジェンダー観にもいえます。近代文学作品を、なるべく現代の価値観に基づく制裁的視点を加えず表現したかったので、現代からすれば許容し難いであろう性差別発言も出てきます。

これも、歴史に対する私の向き合い方であり、あえて淡々と描くことで浮かび上がることがあるはずという信念に基づいています。

そして、これSF?と思われた方はぜひ最後まで読んでみてください、私も描いていてびっくりしましたがたぶんこれはSFです。

詩歌の読書感想的にはじまったこの漫画が、ジェンダー、SF、という観点から評価していただけるのは、拡大解釈の飛距離結構出せたということかなあととても嬉しいです。

扱いの難しい表現を多々含むこの漫画を、作者の望む形で最後まで描かせてくださったアフタヌーン編集部、支えてくださった読者の皆様にも心より感謝申し上げます。

清家雪子

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