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2014年度 第14回Sense of Gender賞 講評

柏崎玲央奈(SF評論家、ジェンダーSF研究会会員)

最近はツイッターばかりにいる。匿名性も保持しつつ個々人の違いが明確なツイッターでは、いろいろな性のあり方を垣間見ることができる。ネットの中の性は、性的自認・性的指向、外面・内面、精神的なもの・肉体的なもの……本当に多様で、性とは何かを改めて考えさせられる。
 一方、フィクションの世界では、著者の「性」の環境によりむしろ古典的な性役割が見られたりすることもある。しかし、今回候補になった五作には、様々な挑戦が見られた。

中国の古典小説の形態を取りながら、「書」を巡って繰り広げられるさまざまな人々の運命を描いた『狂書伝』(新潮社)は、『玉工乙女』を書いた勝山海百合の新作だ。最終選考会では、選考委員のおひとりである立原透耶先生に解説いただき、中国についての知識があるとさらにおもしろく読めることを知った。今回は特に幾人もの女性の人生の生き様が描かれており、著者の意欲を感じた。山に住む女性、犬に変化する女性、才のあるお嬢様、姑と嫁の友愛……しかし、この物語の中心ともなり、性のあり方のひとつとしてもっとも興味深かったのは「少女が書いた書」に対するフェティシズムだ。これは、中国古典にも見られない著者の手によって新たに生み出されたオリジナルのフェティシズムで、その心理の描写、愛する書についての描写が、じつに真に迫っていた。

SFとして大変おもしろく読んだのが西UKO『となりのロボット』(秋田書店)だ。一見、最近流行の少女と少女の出会いと成長の物語、つまり百合ものの形態を取りながら、ロボットと人の交流がリアルに描かれている。
 昨年末、私は外科手術のために入院した。十年ほど前にも同様の手術をしたのだが十年の時を経て医療技術や対人的ケアの進歩にいろいろと驚かされた。そんな中で手術後のもっともつらいときに、新たに導入された足をマッサージする血栓予防のための機械に、大いに慰められた。痛みや不快で目を覚ますと、いつでも寄り添い休むことなく一定のリズムで足をマッサージしてくれている……その動きにけなげさや友愛を感じ、感謝の気持ちを覚えた。
 人とロボットの交流を描いたSF作品は、古今東西枚挙にいとまがない。魂が入ったり、知性を獲得したり、超越した存在によって自我が与えられたりと様々だ。また血栓予防ロボットに私が見いだしたように、人間が一方的に愛を感じるパターンもある。ロボットと人の間に「愛」は成立するか? 『となりのロボット』は、この課題に挑戦する。より現実に則した形で、このロボットはチームにより開発されること、そしてプログラムがアップデートされる。その設定の中で、ロボットは出会った少女に「愛」を示す。どのように「愛」を表現したのか。それはぜひ読んで確かめてみて欲しい。少女と少女の出会いの物語であり、生物と機械というふたつのことなる「者」たちの出会いの物語でもあった。

もうひとつ、ファンタジー小説であるにも係わらずSFを感じたのが、上橋菜穂子『鹿の王 』上下(角川書店)だ。感染症を題材とし、その世界の人々が対応に取り組んでいく医療ファンタジーだ。特に、生物の行動を操るという病原体という新しい生物的発見を踏まえて、もしそのような病原体に人が感染したら……? を克明に描き、物語が展開される。主人公視点で描かれた病原体の感染によって変容し操られ、あるいはそれに抵抗していく様は圧巻だ。
 私は妊娠出産を経験しているが、それにより身体はもちろんのこと、身体の一部としての脳もまた変容したことを感じた。ある意味、胎児は女性の身体に寄生する。そのとき、上手に育つことができるように、親側の身体や精神を改変するのだろう。現れたのがとても美しい色のついた明晰夢で、ネットで検索すると同じ現象を経験した人が何人か捕捉できる。その美しい夢はひょっとしたら脳に酸素や栄養が足りない状況がもたらすものなのかもしれないが、変容するのも悪くないと思わされた。またマウスによる研究ではあるが、産後恐怖心が減少するという報告が見られる。その実感は確かに自分にもある。
 感染病原体によって身体を変容させられていくことはある意味暴力だ。だが、それを主人公は意識を手放すことには抗いつつも、受容的な態度で臨んでいく。それは、そもそも主人公が飛鹿という馬のように騎乗する家畜との共生により変化を受け取る経験をしていたからなのかもしれない。そう、家畜やペットなど生き物と生活を共にすることにより人も変化していく。飛鹿に乗るようになった若者たちが生活様式だけではなく、飛鹿を得ることで考え方も性格も変化していく様が愛おしい。ジェンダーというには少々飛躍が過ぎるかもしれないが、異種の生物同士がもたらす変容を「性」と名付けてもいいのではないだろうか。この物語に描かれた変容は、例えば性的自認や性的指向、「生得的」と言われ変更不可能だと考えられているものすら、変わっていく可能性を示唆してくれる。

SFは思考実験という側面もあり、社会「科学」の未来を考えることもSFであると言える。その特質を存分に生かして、生物的な性ではなく、社会文化の中での性、特に出産を描いたのが、村田沙耶香『殺人出産』(講談社)だ。ジャンルとしては純文学に当たるのだろう。SFのようにその技術の成立や社会の大きな変容までには触れないが、現代に繋がる命の問題、少子化を解消することの困難さを考えされられた。

今回、大賞となった乃木坂太郎『幽麗塔』(小学館)は、黒岩涙香が翻案し江戸川乱歩がリライトし、最近宮崎駿が漫画化した『幽霊塔』のオマージュ作品だ。幽霊塔を巡る謎と事件を、ジェンダーのみならず、性にまつわる様々な人間模様を中心に解題してみせた意欲作だ。少年愛、自己愛性向、男性を自認する女性、不妊、そして、女装により変化する自分を感じ取る主人公……性に関するさまざまな事柄が昭和二十年代の思想の中で生きることの困難さ、逆に平成にはない猥雑さの中で、混然一体となる。性とは何か、正しさとは何か。ホラー的な題材、事件に絡め取られながら、それらが浮かび上がってくる。
 事件の解決ののち、ラストの主人公ふたりのキスシーンは眩しいばかりだ。「ボーイミーツガール」を超えた、変化するものたちの出会いと関係性の、新しい地平は美しかった。

今回、候補に挙がった作品はどれも美しくときにせつない人の営みを描いて見せてくれた。性や人々の生き方がますます多様になり、現実もフィクションも豊かになることを望んでやまない。

2014年度 第14回Sense of Gender賞 最終選考委員の講評

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