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2014年度 第14回Sense of Gender賞 講評

立原透耶(作家)

今回、選考委員として参加させていただきましたが、ジェンダー学としては全くの門外漢であり、たんなるSFファンという意味で非常に緊張しました。けれども討論の場はとても有意義で刺激的かつ楽しいもので、みなさんのご意見を伺っていくうちに、自分では見えていなかったこと、知らなかったことなどがわかり、貴重な体験をさせていただきました。以下、あくまでわたし自身の感じたこと、及びジェンターとSFの観点から、それぞれの作品について簡単に述べさせていただきます。

乃木坂太郎『幽麗塔』(全9巻)

ジェンダーマイノリティが複数登場するのみならず、さまざまなマイノリティが強い印象を与える作品だった。キャラクターが生き生きとしているのみならず、物語も設定もしっかりとしており、優れた完成度の高さを誇っていた。タイトルが幽「霊」でなく幽「麗」であることが、主人公の「麗子」と掛け合わせているだけではなく、ラスト近くで明かされる「真実の名前」にもつながっていく素晴らしい仕掛けとなっている。

個人的には、深窓の令嬢で搾取される性の立場であった沙都子が次第に逞しく変化していくさまが興味深かった。何が狂気で何が正常なのか、何が普通で何が異常なのか。それは誰が決めるのか。どうやって判断するのか。そもそも何が正しいのか。

多様な立場の人物を描くことにより、深い人間心理と社会的な問題をあぶりだしていて、非常にわかりやすいテーマとメッセージを読者に伝えていると思われる。

SFかどうかという点では、マッドサイエンティストが登場するところ、脳移植など当時の技術では考えられない医学を描いていることから、SF的要素を含んでいると判断した。

圧倒的多数で本作品が大賞に推されたのも納得できる完成度の高さである。

勝山海百合『狂書伝』

女性の書いた手紙である「嬢書」フェチとなり、集めまくる逸話が非常に面白かったが、この点をもっとクローズアップして描いてほしかったと感じた。タイトルの「狂書」を意識させるほどには、「書」の部分が目立たなかった気がする。呪われた「書」も意外なほどにあっさりしていて、怪奇要素を期待して読むといささか心残りではある。

しかし、唐代伝奇からの中国に伝わる伝統的な女侠、異侠、政治家的知識人、獣への変化、貧しいが才能ある男性に嫁ぐ令嬢など、典型的な要素を見事に作品全体に配置しているのは、中国文学に詳しい作者ならではの手腕であると思われる。中国古典文学好きなら、見覚えのある具材をどのように料理していくのかという読み方で楽しむこともできよう。

SFかと問われると難しいものがあり、その点で本作はこの賞にはいささか不利であったのではないかと思われる。

上橋菜穂子『鹿の王』上下

一見ファンタジーのように見えたが、実際には感染症やそれに対する医学的な知識、生物学的な問題など非常に高いレベルでのSF的要素が描かれていた。また、物語には多くの女性が登場したが、それぞれにしっかりした生き方を選び、とても好ましく感じた。最も印象的だったのは、身分制などの束縛を受けながらも己の研究をつづけ、自分の生きる道をしっかりと見据えているミルラで、この物語世界で彼女が真の意味での平等を得ることは難しいが、その姿はまさに現代の日本の女性が抱えている種々の問題と重なっているのではないか、と感じた。民族問題など社会的な深さのある作品で読み応えもあり、素晴らしかったが、ただ一点、主人公のヴァンはあまり子育てしていなかったな、という印象が拭えず、そこだけが気になった。

村田沙耶香『殺人出産』

SF的な設定として、男性が妊娠可能になる、しかし女性の流産はある、というような点で最初にひっかかってしまい、果たして医学は発展しているのかいないのかと頭を悩ませてしまった。その点を除けば、表題作の「殺人出産」は少子化と殺人という、相対する「生」と「死」を結びつけた心理サスペンス風の作品で、面白く読めると同時にはっきりとした問題提起がなされており、「産めよ増やせよ」的な考えへの風刺とひねりが効いていた。本書ではほかにも「性」と「生」を分離した作品が中心となっており、「セックス」と「子供を産む」という行為を切り離した設定が非常に興味深かったが、登場人物が男性と女性に限られていたため、もう少し多様な性の揺らぎを表現した作品も読んでみたいと感じた。

西UKO『となりのロボット』

少女型ロボットと人間の少女とのセックスレスな恋愛を描いており、いわゆる男性読者向けエロゲー的百合モノとは一線を画した、女性にも好感の持てる作品であった。少女型ロボットとはいえ、外見が少女なだけであり、精神的にどこまで「女性」であるかというと、どうも「中性的」に感じる。性別が感じられない。人間の少女との友情とも恋愛ともつかぬ微妙でふわふわした関係は、「性」も「種族」もすべてを超えたところにある感情で、その点を個人的にはとても高く評価した。また、ロボットをサポートする科学者集団がとても良い味を出しており、基本的に善意に満ちた、ユートピア的な近未来像を描いていた。ただし少女型であるがゆえの性的嫌がらせとそれに憤る女性科学者の存在など、現実社会における女性の問題もさらりと描かれており、ロボットが「女性の姿である」ことで生じる問題=ジェンダー的な問題が提起されていたように思う。またロボットが最後まで人間くさくならず、あくまで人工知能としての存在として描きながらも、しかしそこに生じるわずかな謎のメモリ……というラストにはグッときた。

2014年度 第14回Sense of Gender賞 最終選考委員の講評

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