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2014年度 第14回Sense of Gender賞 講評

渡邊利道(作家・評論家)

センス・オブ・ジェンダー賞は毎年読書の参考にさせていただいていたので、今回小谷真理先生が声をかけて下さってとても光栄でありがたく思ったのですが、同時にジェンダーについてまったくの門外漢なので非常に緊張しました。もっとも選考会はとても和やかでのびのびと自分の意見を言うことができ、また選考委員のみなさまの見識豊かな鋭いご意見に驚かされたり深く納得させられたり、非常に勉強になりました。

五十音順で作品のコメントを書きます。

勝山海百合『狂書伝』

勝山さんの作品ではめずらしく、万暦帝の治世と背景になる時代を明確にしている長篇で、歴史小説とファンタジーをうまく融合させている余裕のある語り口が大変魅力的な作品。

ジェンダーという切り口では、ジェンダーを階級につなげて寓話的に作品化した印象がある。上流階級の男ども、とくに大人ぶった陳遷が、意識せずしてひどい人間であることが語りの綾から浮かび上がってくる書き方、それに筆の達者な少女がいかにも少女らしく想像力に限界があるところなど、「階級」の問題を批評的に描く視点を強く感じた。「嬢信癖」という若い女性の手紙を愛好する性質には「男の馬鹿っぽさ」が甚だしい。他にも、「男であることの恥ずかしさ」を強く感じさせる部分がありとても批評的であると思う。

冒頭部に登場する帳東苑と斑娘が、世話になった女が泣いているのに対するしかたが、物語内で陳遷を諌めるやり方の違いと、もたらす結果の違いに対応しており、そこにも象徴的な「ジェンダー」の違いを感じさせられた。小説として大変洗練された方法だと思う。

村田沙耶香『殺人出産』

倉橋由美子風の観念的な風刺小説としてのSF。当たり前のことがずれていたり逆転したりすることで生まれる諧謔やエモーションが意図的に無駄な装飾のないあっさりした文体で描かれる。中編と短篇二つに掌編で計4篇収録。表題の中編は10人出産すればひとり殺人を許可されるというシステムが採用された近未来社会で、出産活動中の姉を持つ妹が、殺意で嫌な日常を紛らわせているところへ、自然妊娠を指向し殺人を拒否する若い女性、現在の考え方に完全に染まっている少女がやってきてからむ。他の作品に比べ分量も長いが文体もやや重く、ひりひりするような悪意を感じさせられた。他に三人で恋愛関係の陥るのが流行している社会で、カップルの性交に嫌悪感を抱く少女の物語、性交しない結婚をした夫婦が子作りする話、不死が実現した社会で「死」が人生で一番のレジャー(行ったきりだが)になる話など。どれもテーマが明快で、とくにリアリティーに拘泥して設定を緻密にする方向ではなく率直に語りたいことだけを語る感じがよかったのだが、やや物語の展開にこちらを驚かせかつ納得させるような飛躍がなかったように思えるところもあった。

他の委員から、震災後の「絆」や「自然としての母親性の肯定」が支配的になっている現状への批判として大きな意義のある作品という意見が寄せられ、非常に説得的だったので特別賞受賞に同意した。

上橋菜穂子『鹿の王』上下

感染症をメインモチーフにした生態学SF的な面を濃厚に持つハイ・ファンタジー。医学・生物学的な思考と、現在の政治状況を連想させる少数民族の悲哀やテロリズム、宗教や習慣による対立や差別と言った問題性をとても巧みに盛り込んだ優れて現代的な作品に仕上がっている。

ジェンダーという点では、焦点となる男性登場人物が、ペンギンの習性を思わせる「独角」という存在になっていて、彼がその立場を全うしつつ、そこから脱するのではないかという予感が終わっているところが物語として美しい。あと、メインとなる二組のカップルの女性たちが、片方が子供ができなかったためにみずから離縁して実家の父の命ずるまま職業人として生きる寡黙な中年女性、片方は身分の違いをわきまえたままそばにいることを選び、愛する天才医師の助手となる若い女性という、職業によってみずからを「救う」キャラになっているのが印象的である。全体的に保守的であるのと、一般小説としてのバランス感覚が優れている分センス・オブ・ジェンダー賞の性質上やや物足りない印象も受けた。

西UKO『となりのロボット』

高度な人工知能備え実験段階にある女性型ロボットと、幼年期から一緒に育ってきた女性の恋物語。

大変さわやかな物語で、SFとしてはロボットについての人工知能研究的なディティールが大変面白く、また研究者たちの姿の描出も魅力的だった。ロボットの少女だけがまったく外見が変わらず、他の登場人物は年を重ねていくという常套ともいえる設定を、丁寧に描いて思弁と情動をどちらも揺さぶる作品になっている(短篇連作というスタイルがよく効いている)。

もっとも個人的には、恋愛もの、あるいは異種混交ものとしてとらえると、やや内容が淡白に過ぎるかもしれないとは思った。たとえば恋に落ちる瞬間とか、きっかけの描写がないなど、恋愛ものならばもっとくっきり書いて欲しいエピソードがないなどは大きく不満だった。

もっとも、「百合もの」などと俗にいわれるジャンルの男性目線や、人工知能などの科学研究の現場でのジェンダーへの無防備さという昨今たびたび問題となっている状況を勘案すると、この作品の関係性に対する繊細さは批評的に大変貴重なのではないかという観点から特別賞受賞に推す意見にも説得力があった。とくにもう一つの特別賞である『殺人出産』とは正反対の内容を持つだけに意義があると感じた。

乃木坂太郎『幽麗塔』(全9巻)

今回のノミネートでは最長の全9巻の漫画作品だが、まったく長さを感じさせず一気読みできるストレートな面白さが素晴らしかった。黒岩涙香=江戸川乱歩の同名作品を換骨奪胎しながら、昭和39年の神戸に物語を設定して、周到に張り巡らされた伏線と意外な展開でぐいぐい引きつけて離さない物語の力はピカイチ。

センス・オブ・ジェンダー賞候補としても、トランスジェンダーの美形を中心に、男子同性愛やSM、女装、妊娠出産、整形、異形、近親相姦などさまざまな性的モチーフを登場させて、ギリギリ悪趣味にならず、娯楽性も失わずに真摯に展開していると思う。連載漫画なので一部伏線がうまく行ってない感じのところもあるが、中盤からぼんくら主人公が女装経験をきっかけに強くなっていくというアイロニカルな展開を、少年漫画的な「さわやかさ」につなげてしまっているのが巧い。個人的に大変興味深かった細部として、女装した主人公が「妊娠(子供を産むこと)」についてとてもポジティヴなことを言い、それにトランスジェンダーの登場人物がビビッドに反応するところで、自分の周囲には少なからず「子供を産みたい」という幻想(妄想)的な欲求を持つ男性が存在するのでとても複雑な感慨を覚えた。性自認や性的嗜好というのは本当に繊細でほとんど複雑怪奇と言ってもよいようなものなのだとあらためて感じた。

大賞に相応しい作品であると思う。

2014年度 第14回Sense of Gender賞 最終選考委員の講評

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