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2011年度 第11回Sense of Gender賞 講評

三五千波(ジェンダーSF研究会会員、漫画家)

 2007年からSOG賞の主催団体、ジェンダーSF研究会に関わってきた。発行ファンジンにマンガを書いたり、日本SF大会(TOKON10)では、他メンバーと共に発起人参加したが、今回初めてSOG賞の選考に加わることになった。

 少女の友情(更には愛情)、そして「少女同士のsolidarityで地球を救う」という願い、二つの柱が受賞作三作に見いだされる。偶然だろうか。「地球」は「愛する者の住まう街」と言い換えても良いだろう。「自分たちだけ幸せなら他人なんて関係ない」「どうせ世間なんてそんなもの」な、醒めたエゴイスト娘はお呼びでない。民草の幸福を心底祈っている、王女様のような娘ばかり。
 「百合っぽい」。とくにTVアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』は「ジャンル百合」として消費されていると思われる。だが、ここ数年流行、定着したオタク向け商品カテゴリとしての「百合」という呼称は、このnoblesse obligeを備えた少女たちの物語にはふさわしくないと感じた。そこで「シスターフッド」という言葉を恐る恐る提案してみた。
 この三作品に共通するシスターフッドに近い概念として、「少女革命」という言葉を思い出す。アニメ『少女革命ウテナ』により創造され、普及した言葉だ。この作品も女の子の同性愛ストーリーには留まらぬ、少女らの自由を阻む異性愛強制的な権力と戦う話である。

 私は川原由美子『ななめの音楽I』『ななめの音楽II』を大賞に推した。
 この作品が候補作中もっとも、「ぶっとんでいる」と感じたからである。
 表現やジェンダー的設定だけでなく、実際「飛ぶ」話でもあるし。小型戦闘機やコックピット中の人物の描写には、高い画力が必要だが、少女マンガ界有数の立体感ある人体描写で定評ある川原さんのペンは、メカをも軽やかに描きこなしている。
 全ページ黒ワクに縁取られた1ページ4コマの「疑似シネスコープ」スタイルに統一され、映画のように「セリフ」「映像」のみが読者に差し出される。その結果「マンガらしい分かりやすさ」のための独白、まだるっこしい感情の説明や、設定の説明から解放されている。詩を読むような想像力が読者には要求されるが、このような幻惑感は、まだまだマンガでは極められていないのではないか。
 少女マンガの保守化傾向は長期化しているが、久々に難解であることを恐れない先端表現に触れた気がする。成層圏めざし高度を上げ、少女マンガ表現のフロンティアが更に深まることを期待している。

 TVアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』 監督:新房昭之は、ストーリー以前に、美術、演出、声の演技に心底魅了された。イヌカレーの魔法異世界描写だけでなく、建物や街の造形の美しさに痺れる。『少女革命ウテナ』がそうであったように、オリジナルな世界観や物語は、新しく独創的な表現に宿ることを実感する。
 私はいわゆる「萌え」「メカ設定」など、オタクに受ける記号の集積のようなアニメ表現が苦手で、今回十年ぶりに全話通してアニメを見た、というくらい喰わず嫌いの、アニメ批評の資格なき門外漢である。そんな私が「アニメの嫌いな所が一つもない」と感じるほど、自分の嗜好に合った作品に出会えて嬉しく思う。

 粕谷知世『終わり続ける世界の中で』二十世紀末、ほんの十数年前まで日本の若者の一部は、重苦しい終末論に囚われていた。「もうすぐ世界が滅亡する」と本気で信じている子供がたくさんいた。オウム事件のような社会現象として論じられることがあっても、あの時代の絶望感、閉塞感を、少女の目で生き生きと描いた青春文学は少ないのではないだろうか。私は同時代を生きた子供として、この作品を書いてくださって本当にありがとう、と言いたい。

 萩尾望都『音楽の在りて』は、収録作品の発表が数十年前に遡ることと、後に完成されたSFマンガのエスキース的文章と考えられることから、賞には推さなかった。『美しの神の伝え』は、かなわぬ願いとはいえ、初期の絵柄でマンガ化されていたら……どんなに透明感あふれる作品になっていただろうか。

 東直子『私のミトンさん』。実は小説としては一番好み。磨かれた言葉で、ある意味異様な家族関係をさらっと描く。読後、胸に房総の海風が吹きぬけるような解放感。ジェンダーSFというより、エイリアンに託して介護問題や家族のあり方を照射する、新感覚のユーモアSFかと思う。

2011年度 第11回Sense of Gender賞 最終選考委員の講評

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