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2009年度 第9回Sense of Gender賞 話題賞

話題賞 樺山三英『ハムレット・シンドローム』(ガガガ文庫)

受賞の言葉

 このたびは名誉ある賞に選んでいただきき、ありがとうございます。たいへん光栄に思います一方、はたしてどこをどう評価していただいたものか、戸惑う側面もなきにしもあらずで。ちょっと不思議な感じがしております。

 『ハムレット・シンドローム』は久生十蘭の短編を元に、シェイクスピアの原作を巻き込んだ翻案作品です。その中で自分が採用したハムレット像というのは、「母親の再婚に拗ね、カノジョに辛くあたるワガママな王子」といったものです。もちろんそれは、ハムレットというキャラクターの一側面に過ぎないわけですが、自分にとっていちばんヴィヴィッドに感じられたのが、そんな部分だったわけです。

 総じて本作が扱っているのは、そういったせせこましい《男の子の自意識》ではなかったかと思います。だからある意味、かなり偏った視点で書かれた作品とも言える。演劇を媒介にして、自意識のメタゲームを繰り返す男の子と、存在そのものが演技である女の子――両者の対立が作品の根底にはあります。しかしそうした対立軸の設定自体も、いかにも男子的な強迫観念の成せるわざではないのか……。結局、ある種の開き直りと共に、自分はこの小説を書ききったわけですが、疑問が完全に晴れたわけではありません。

 そもそも一読者としての嗜好から言えば、自分はむしろ女性作家のファンである場合が多いです。特に、性差の問題にぐんぐん踏み込んっでいく作家――松浦理英子さんや笙野頼子さん、多和田葉子さんといった方々の大ファンであったりします。学生の頃、最初にハマったSF作家は大原まり子さんでした。にもかかわらず、自分が書くものはたいてい、男子の自意識に閉じこもったものになる――。嗜好と実作の間のねじれは、長らく課題としてありました。そういった葛藤の軌跡があるいは、『ハムレット・シンドローム』という作品を縁取っているのかもしれません。

 しかし一方、偏った視点からこそ書けるものがあるのではないか?――そんな自負があることもたしかです。今回いただいた《話題賞》、実はセンス・オブ・ジェンダー賞史上二度目ということで、なにげにレアなポジションのようです。《話題賞》初代が、花沢健吾さんの『ルサンチマン』であることを知った時、なにか少し腑に落ちた感じがありました。花沢さんも、強烈な強迫観念(きわめて男子的な)に満ちた作風で知られる方だったので。

 今回、自分の作品がなにがしかの《話題》を振りまけたのであれば、それは大きな喜びです。自分自身またそこから新たな刺激を得て、次作に取り組んでいければと考えています。ともあれ、評価していただいたこと、ほんとうに感謝感激です。ありがとうございました!

樺山三英

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