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2002年度 第2回Sense of Gender賞講評

おのうちみん(ジェンダーSF研究会スタッフ)

投票は『両生具有迷宮』です。

『両生具有迷宮』西沢保彦

おもしろかったです。とにかくバカでスケベな話で楽しめました。語り手を含め実在の作家&ぬいぐるみ(笑)がゴロゴロでてきて、一種メタフィクション世界が舞台。さらに宇宙人(ぬいぐるみの白熊そっくり)の手違いで、若き女性達にペニスが生えてしまったという、どうにもばかばかしい設定がさらにジェンダーをぐちゃぐちゃにします。
現実と幻想、男と女、対比されているのもが、結局ぐちゃまらに入り乱れているというのがとても楽しい。ミステリーとしてみると犯人像があまりおもしろくなかったが、未知の現象に出会った登場人物がどう行動するかというSFとして読んだときに、女にはこうゆうたくましさがあるよなー、と感じさせてくれた点を特にジェンダー賞に押します。あとは5作の中で小説として一番おもしろかったから。

『海を見る人』小林泰三

非常に私のツボの作品です。全くつながりがないと見えた各話が、最後まで読むと実は一つの世界の話だというのもいい。「独裁者の掟」と「門」が特にツボです。どっちも時間が交錯して、徐々にあきらかになる物事が、最後にカチッと収まるのが心地よい。まあ2/3くらいで予測はつくん だけどね。 ラストまで読後感がさわやかです。
ただしジェンダー賞に押すかというと、微妙。というかなぜ候補作なのか、よくわからなかった。なにかわたしの読みとれてない重要なジェンダー的ポイントがあるのでしょか? 「独裁者の掟」と「門」はたくましい女性が出てくるが、いま現代のまわりを見回せば、女がたくましいなんて普通のことだと思うんですけど。

『妻の帝国』佐藤哲也

あんまり後味のよい話ではないです。 語り手は30代のサラリーマン。奥さんは直感による民衆帝国を築き上げるため、日々 手紙で民衆細胞に指示を与える。かなり不条理です。
何年もの雌伏期間の末、ふたりの結婚記念日の6月9日、武装決起した民衆細胞達により、あれよあれよという間に日常は崩壊し、情報は入らなくなり、密告が奨励され、ナチ政権下か、スターリン主義のソ連みたいな生活になっていく。奥さんは決して姿をあわらさない、最高指導者。不気味なのは、語り手の夫を含め、人々が状況に染まって行くことです。個別分子を摘発、補導(補導された人は、大抵帰ってこない)する補導員を、「突撃隊のゲス野郎」と思っていた夫が、やがて彼らと酒をのみ「過分の責任をもって苦悩する若者」と考えをかえる。読みながら、アウシュビッツ収容所所長ヘスの自伝を思い出してました。この自伝は戦後、ヘスが裁判の時に尋問された内容に、ヘス自身が書き加えた文書です。あまりに怖くて、わたしは編者の序文までしか読めなかった…。(いずれちゃんと読みたいが…)

ここで「怖い」というのは、別に残虐描写に溢れているという意味ではないです。そ うではなくて、ヘスがあまりに小市民的で、普通にそこらにいる家庭人であったということ。そんな彼は、大量虐殺という仕事を遂行するにあたって、日々意識のすり替えを行っていたようなのです。例えばヘスは、殺人を見たくなかった。だから効率のよい、血 の出ないガス室を歓迎した。自分の手で死体を扱いたくなかった。だから囚人から候補者を募り、死体処理をさせた。しかも死体処理をする囚人達をみて「やっぱり劣等 人種だ」と思っていた。
自分が、彼らをそこまで追い込んでいる、という意識がすっぽり抜けている。原因と結果の因果が構築できていない、または構築しないことによって、簡単に自分の罪悪感も取っ払うことができてしまった。しかし、こうゆう「見なかったことにしよう」的な意識のすり替えは私だって、日々ちまちまと行っているんですよね。例えば目の前でブタを殺すのを見せられれば、やっぱりいやです。でも豚肉はおいしく食べます。食べてるときは、目の前のお肉と、殺され解体されたブタを、切り離して考えてているからおいしく食べられるわけです。 とそれをどんどん発展させると、あそこまでのことができてしまうのか? これはと ても怖い問いです。
『妻の帝国』の登場人物達は、だれもが意識のすり替えを進めていった結果、どんどんこわれていきます。(奥さんは最初から、こわれてるようだが…)ラストまで怖いままの小説でした。

作中、舞台の街の駅前のモニュメントが“大カマキリ”の像です。カマキリの特徴はメスがオスを食べちゃうこと。つまり『妻の帝国』のもつライトモチーフの一つはそ うゆう事だというわけですな。
一つ気になったのが、民衆細胞になんで男性しかいなのか? メインの女性キャラは奥さんだけだし。制服着て民衆帝国の理想に邁進する女性がいてもいいと思うんです が。指令を伝達する過程で無意識にも男性をメインに選んでいたのなら、帝国はその 始めから偏ったイデオロギーに縛られていたわけで、奥さんの望んだ脱イデオロギー、「直感」と「民衆感覚」からだいぶかけ離れてたと思われます。

『宇宙生命図鑑』小林めぐみ

なかなか面白かったんですが、帶のキャッチコピー「女だけの惑星ジパスを訪れた神父と猫型宇宙人の正体は?」って、正体あかされないままじゃねーか!!!(怒)
いかにも「人気でたら続編あるかもねー」的な終わり方はやっぱり反則でないかい? 守るものと守られるものという2パターンの住民どちらもメスばかりで、クローニングで増えるという世界。オープニングはティプトリーの「愛はさだめ、さだめは死」 みたいな期待をいだかせる。
しかし地球人が、なさけねー。いろんな惑星に植民するまでになっても、地球人いまだに「力技は男」なんてアホなジェンダー感を引きずってるのか~~。なんか情けなくなったです。
原住民ヒーリーの地球人に対する対決策もなんかなー。まあ、地球人に毒された結果かもしれんが、「女だけで戦えばいいじゃん!」とわた しは思ってしまった。
もっともオスが戦争のためだけに作る出される存在なら、こういうのもアリかも知れない。その場合事態が収束したらオスは処分かなやっぱり…。『女の国の門』みたい に。
ウルマとディリが、少女の精神構造のまま幸せになれる文化圏を作りだしてくれることを望みます。

『傀儡后』牧野修

出てくる登場人物が、だれもこれも見かけと実際の性が違うというのは面白かった。が、途中のスプラッターな描写はわたしは苦手…。もともとホラー映画も観れないし。ラストはなんか、肩すかしな感じでした。もう一ひねりほしかったです。

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