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2002年度 第2回Sense of Gender賞講評

風野春樹(精神分析医・SF書評家)

えー、申し訳ないのだけれど、私にはいまだにジェンダーというのが何なのかよくわかっていない。ついでにいえばSFとは何なのかもよくわからない。ゆえに、ジェンダーSFが何なのかさっぱりわからないのは理の当然といえよう。

 既存の男女観、あるいは異性愛を当然のものとする世界観をひっくりかえしてみせれば、それがジェンダーSFになるのだろうか? たとえば、男性中心主義者が極度に男性中心的な世界(「ゴル」みたいな)を描いていても、それは優れたジェンダーSFになりうるのではないか……オタクと二次元萌えキャラの間にあるものもジェンダーと呼ばれうるのではないか……などと益体もないことを考えつつ、こんな私が選考委員を務めて果たしてよいものだろうか、と3分ほど悩むポーズをしてはみたのだけれど、悩むのはやめてとにかく選んでみることにした。私は前向きなのだ。

 まず、西澤保彦『両性具有迷宮』は、男女や単純な同性愛だけではない、さまざまな性愛の形に蒙を啓かせてくれる小説といっていいけれど、「SF」という点からすればちょっと弱い。

 牧野修『傀儡后』は、フェティシズム、病気、暴力、ドラッグ、人体変容などなど、一般には悪趣味と言われる要素が横溢した華麗でグロテスクな作品。もちろんジェンダーもさんざん弄ばれたあげくボロボロにされてしまう。

 佐藤哲也『妻の帝国』(早川書房)は、私にはどこがジェンダーSFなのだかよくわからない。安田ママさんのサイトでやっていた映像化希望作品アンケートで、おおたさんが「主演は有森也実と緒方直人」と書いていたのに実に深く同意。それ以来、私の中では不由子は有森也実です。全然ジェンダーと関係ないけど。

 小林泰三『海を見る人』では、「母と子と渦を旋る冒険」が『AΩ』同様、地球とはまったく異質な宇宙生物の生態系を描いていて見事。なるほど、真に優れたハードSFは、地球上のちっぽけな人間のジェンダーのことなどまったく斟酌しないが故に、優れたジェンダーSFにもなりうるのだ。

 そして小林めぐみ『宇宙生命図鑑』は、ヤングアダルトっぽい見かけに反して、地球上とは異質な生態系を持つ異性生物を描いた、実にまっとうな生態系SF。あまりにも古典的すぎるという批判もあるだろうけれど、オーソドックスなSFが少ない昨今じゃこの正統性こそが新鮮である。ただし、作者は小林泰三ほど意地悪ではないせいか、異星種族の描写はたぶんに地球人的に描かれている。

  「ジェンダーSF」は、あくまで「ジェンダー」「SF」であり、「SF」というからには、やはり男女という地球上のジェンダーすら超えた広がりがほしい……ということで、『海を見る人』『宇宙生命図鑑』のうちどちらを選ぶか迷ったあげく、その堂々たる正統性に敬意を表して、『宇宙生命図鑑』に一票を投じることにした。

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