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2001年度 第1回Sense of Gender賞講評

牧紀子(日本SFファングループ連合会議議長)

SF小説を楽しむとき、その空想的な世界に魅了される。わたしの場合、表現される世界が、遥か未来が舞台だったり、人間のいないどこか知らない惑星だったりすると、その科学力や進化のあり方が気になるのと同じように、そんな世界での、社会的・文化的な性〈ジェンダー〉はいったいどんなものなんのだろうと、つい期待してしまいます。きっと、いろんな〈ジェンダー〉が表現されているに違いない。男・女という単純な二分化された性別 ではない、SF的な第三ジェンダー(Third Gender)の存在[魂を持つロボット、融通の利く人工知能、エイリアン、惑星などなど]も、SFを読む楽しみのひとつとなっています。

2001年のSFセミナーの合宿で、SF的にジェンダーを語り合おうと『ジェンダーSF研究会』は旗揚げしました。

そして、第一回『Sense of Gender賞』を、SF大会で発表することになりました。この賞は、ジェンダーSF研究会の会員の判断によって、前年度に発表された作品を対象とした、SF的にジェンダーを考え感じさせてくれた日本の出版作品を選び、「あなたのSF的ジェンダー考はすばらしい! 」と、一方的ではありますが、褒め称えさせていただく賞です。これをきっかけにすこしでも多くのSFファンに、SF的にジェンダーを語り合ってもらおうと考えています。

選考について  いろんな方の意見を参考にして、以下の5作品が、選考作品として選ばれました。

  • 茅田砂胡『スカーレット・ウィザード』(全5巻)(中央公論社)
  • 森岡浩之『星界の戦旗III 家族の食卓』(早川書房)
  • 由貴香織里『天使禁猟区』(全20巻)(白泉社)
  • 小林泰三 『AΩ(アルファ・オメガ)』(角川書店)
  • 大原まり子『超・恋・愛』(光文社)

もともと、わたしが推薦していたのは『星界の戦旗・家族の食卓』と『AΩ』の2作で、さっそく残りの作品を楽しむことになりました。どれも『Sense of Gender賞』の選考作品だけあり、それぞれの表現を楽しむことができました。

 最終的には、〈スカーレット・ウイザード〉と『AΩ』を選ぶことにしました。
他のメンバーと違って、つたない感想文になりますが、以下選考理由を書かせていただきます

・『AΩ』のこと

初めて小林泰三さんの小説を読みました。あの「プラズマ生物」の表現があまりに見事でした。なんといっても人間と接触したプラズマ生物が、人間でもなくプラズマ生物でもないモノになり、敵対する生体を追っていく(こっちもスゴイことになってて、おもしろい)、いろんなジェンダーがさりげなく、無意識に表現されていました。プラズマ生物の表現の面白さは、SF読んでる実感を感じさせる、ジェンダーの表現だと思うし、人間との接触による現象は、無意識のうちにジェンダーについて語っていると、勝手に感じてしまいました。あとでこの作品が特撮好き方に好評らしいと聞き、説明したもらうまでどうしてなのか気がつかなかったくらい、わたしは変な読み方をしてしまったようですが。

・〈スカーレット・ウイザード〉のこと

すごかったです、あっという間に5冊読んでしまいました。この作品は、しっかり意識してジェンダーを表現しつつ、それ自体も作品に必要なエッセンスとなっていました。かっこいい女と男、宇宙を狭しとおおあばれ、いろんな人間がいろんなジェンダー考を持ち、それがひとつの型にはまらず表現されたり、いろんな人工脳が表現されていることも、ただのラブロマンスでは済まされないSF作品となっています。

総評にかえて

いろんなジェンダーの表現をSF作品に取り入れることは、無意識に(男らしい、女らしいなどのように)当たり前と感じていることが、いかにその社会と関係しているかを思い知ることになります。そして、そんなことを感じるためには、自分自身が普段から無意識に当たり前と感じることを、なんで当たり前なんだろうと考えてみないと。

3年ほど前、幸運にもそんなチャンスに出会いました。その時に初めて、一見人の性別は「男」と「女」という2通りに感じるけれど、肉体(生物学的性)と心(性自認)の要素が組み合わされ、いろんな性の現れ方があり、どれも自然な性であると感じたのです。SFは科学だけでなく、人の性のナゾにももっとチャレンジすべきだし、人を描くSF作品ならば、ましては切り放して考えてはいけないことだと思うのです。
そういう意味で、意識してかつ自然に表現されている、〈スカーレット・ウイザード〉の方を、ホンの少し強く押したいと思います。

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