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2011年度 第7回Sense of Gender賞 海外部門最終選考作品

ゲイル・キャリガー『アレクシス女史、飛行船で人狼城を訪う』〈英国パラソル奇譚〉
川野 靖子訳〈ハヤカワ文庫FT〉
Gail Carriger, Changeless

ゲイル・キャリガー『アレクシス女史、飛行船で人狼城を訪う』〈英国パラソル奇譚〉

内容紹介(「BOOK」データベースより)

異界族の存在を受け入れた19世紀のロンドン。この地で突然人狼や吸血鬼が牙を失って死すべき人間となり、幽霊たちが消滅する現象がおきた。原因は科学兵器か疫病か、あるいは反異界族の陰謀か。疑われたアレクシア・マコン伯爵夫人は謎を解くため、海軍帰還兵で賑わう霧の都から、未開の地スコットランドへと飛ぶ―ヴィクトリア朝の格式とスチームパンクのガジェットに囲まれて、個性豊かな面々が織りなす懐古冒険奇譚。

小谷真理(SF&ファンタジー評論家)

19世紀ヴィクトリア朝英国を、思いっきりハイテク現代風にアレンジし、ちょっとマッドに決めたファンタジーといえば「スチームパンク」。その典型である本書は、まず設定が面白い。吸血鬼・人狼・幽霊らが人間と共存している世界なのだ。加えて、主人公アレクシスは、怪物を人間に変えてしまう特殊能力の持ち主。本書は、彼女の遭遇する事件を追うシリーズ第二作目にあたる。

前作では大柄で決して美人とは言えないオールドミスの主人公が、謎の吸血鬼事件をきっかけに人狼伯爵とめでたく結婚したものの、今回は、夫を含む人狼たちが狼に変身できない怪奇現象が勃発、事件解決に乗り出す。人狼の変身や生殖に関する珍妙で緻密な生態、ミイラの特異性、飛行船の旅など、盛沢山の風物を詰め込みながら、基本は紳士淑女のライフスタイルで、それが何ともお洒落。加うるに、怪物の夫を持つ女性を、シリアスに書くのではなく、あくまでドタバタでユーモラスに描いていくところが、本書最大の魅力であり、抜きん出ている点ではないかと思う。

おのうちみん(Webデザイナー、ジェンダーSF研究会会員)

読んだのは一巻の『アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う』のみです。2011年は三作目の『アレクシア女史、欧羅巴で騎士団と遭う』まで、翌年には五作目が翻訳出版され完結しているので、シリーズとして押すなら2012年に全五巻で評価のほうがよいのではないかと思う。

『アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う』は基本的に古典的な少女マンガ系の少女小説でおもしろいし、ヒロインと相手役マコン卿のツンデレ合戦が楽しい。コバルト系が好きな人なら楽しく読めるだろう。

狼男マコン卿が昔(50年代以前)のハリウッド映画の男性タイプというか、最近の悩めるへたれやさ男タイプではない点はとても気に入った。肉体はガチで精神的にもマッチョタイプなのに、一族の雌狼となるものには絶対服従というあたりも、マッチョであることの精神的な強さと弱さ、両方の暗喩ぽくておもしろい。このあたりがフェミ色プラスでよいのだが、一巻目だとその辺がまだ弱い。二巻の『アレクシア女史、飛行船で人狼城を訪う』で発展するようなので続刊に期待。正直にいうと表紙やタイトルのあざとさにかなり引いて、おもしろそうだと思うのに手に取るのを躊躇した部分があったが読んでみようと思う。

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