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2006年度 第2回Sense of Gender賞 海外部門 候補作

テリー・プラチェット『魔女になりたいティファニーと奇妙な仲間たち』冨永 星訳(あすなろ書房)
Terry Pratchett,The Wee Free Men

鈴木とりこ(ジェンダーSF研究会会員、レビュアー)

『魔女になりたいティファニーと奇妙な仲間たち』を読んで

 わたしは、本作品を大変面白く読みました。
 プラチェットの「ディスクワールドシリーズ」は今回初めて読んだのですが、他の作品も、折を見てぜひ読もう、と思いました。

 ティファニー・エイキング嬢は、鉄製のフライパンで悪いやつをバッシーーーーン!! とぶん殴る、勇猛果敢な羊飼いの少女です。羊飼いの一族であることは、彼女の誇りです。そして、魔女志望。9歳。

 ティファニーは、独立心旺盛な生意気盛りで、作品内のあちこちで、既存の王子様・お姫サマ物語への疑問提出が、ティファニーの独り言として、ちょこちょこなされたりします。すでにオトナになってしまったわたしはともかく、もし正しい対象読者層の頃のわたしがこの作品を読んでいたら、このあたりは面白がって「そのとおり~!」なんて、むやみに援用してしまったかも、という気もします。
 そして大人をぐったり疲れさす、イヤンでナマイキなくそガキに育ってしまったかもしれません。いいですね。どんどんいけ~!

 なるべく無垢であってほしいとか、無邪気な心優しい「コドモらしい」コドモであってほしいとか、オトナの欲目でついつい願ってしまったりもしますが、実際、自分がコドモであったときの感触というのを(忘れてしまった部分もいろいろあるけど、でも同時に)いまだに強く覚えている部分があります。
 というか、本作品のような物語を読むと、自分の中で眠っていた子供の頃の自分が再度立ち上がってくる感触があります。
 ティファニーの、かわいらしさなど全然ないハネっかえり加減、ナマイキ具合、背伸びっぷり、手ごたえあるタフな様、大好きです。
 爽快。
 実際、ティファニーのように暴れるなんて、どんなに暴れん坊のコドモでも、現実の世界ではなかなかできっこありません。
 子供の頃だってそんなことはわかっていました。
(だから、きっとティファニーのことは大好きになっただろうと思います。)
 でも、読書の中では、このくらい乱暴ものでありたかった自分のことはよく覚えています。
 こういうふうに、ちからいっぱい、全力を発揮したかった。この程度にはエネルギッシュな志向だったという気がします。
 オトナだけでなく、他者からみれば、本読みっ子のわたしは「本ばかり読んで、黙りこくっている」状態が長かったかもしれないのですが、本人のセルフイメージは、このくらい暴れん坊でした。今思うと不思議でもありますが、でも、ふだんはおとなしくしていても、しかし内面ではこのくらい「バーチャル暴れん坊」なコドモ、案外、多いんじゃないでしょうか。

 ティファニーは、「めんどくさい、ぜんぜんかわいくないなあ」と思いつつ、弟を守るのは自分の使命で「あったりまえのこと」と考えています。その心意気&正義感やよし! そして、とてもリアリティを感じます。
 わたしにも弟がいますが、子供のころ、それなりに「弟の面倒を見る、お利口さんのお姉さん」だった、ような、気がします。
 でもそれは「弟がかわいいから」、それゆえに「弟思い」だったのか?
 では「弟はかわいい」というその刷り込みのようなものは、いったいどこからきたのか? 
 美しい兄弟愛なんでしょうか?
 正直、よくわかりません。
 けんかもしょっちゅうしました。
 でも「わたしはお姉さんで、そうしなきゃいけないから」という、頑なな正義感があったことは覚えています。
 その種の、子供の中で育っている「正義感」は、オトナにはけっこう問題外の扱いを受け、軽く扱われてしまうものです。でも子供にとっては、かなり大事なポイントのひとつでした。
 なぜなら「弟がかわいくなかったら、守らなくていい」などとは微塵も考えていないからです。
 弟がかわいいかどうかは、「守らなければいけないという義務」とは、まったく別の軸にあることです。
 かわいくても、かわいくなくても、守る、と思っているわけです。
 その「責任感」は、コドモっぽいものかもしれない。でもマジメで真摯なもので、決して「かわいいから」という理由と引き換えに成り立つ、利己で打算的なものではないのです。「責任を感じて」「ちゃんとしようと思っている」そのマジメさについて、コドモはいい加減にされたくないと思っている。

 コドモは、自分が「自分勝手かどうか?」ということにとても敏感です。なぜなら基本的に、待つ立場、受身の立場にあるからです。
「誰かにやってもらわないと願いがかなわない」立場にあることは、とてもつまらないことです。本当は「自分でやりたい」のに、できない。あるいは、まだコドモだからやってはダメ、一人前ではないと常に言われている。
 やってみたくてたまらないのに。
 もしかしたら、できるかもしれないのに。
  はやく一人前として扱われたいと願っている。むしろ、コドモのほうが、ラクをしたい大人に比べると、ずっと本気で「いつまでもコドモ扱いしてほしくない!」と思っていたりする。

 作品に戻ると、たとえば「ウェントワースはねとねとになる。身体を洗ってふいてやって、きれいにそうじした床の真ん中に放っておいても、5分もすればもうねとねとだ。どうしてなのかはわからない。とにかくねとねとになる」という描写だけで(今でもそうですし、昔のわたしだってもちろん)ぴんときます。
 欲を言えば「お姉さん」をやることは「けっこう面白いなー」と感じる部分や、お姉さんとしての自負なんかも、あれば更にうれしかったですが、これはこれで、食い足りないという気はしませんでした。

 主役ティファニーの魅力はもちろんのこと、周囲の脇役がまた曲者ぞろいで、いい味です。ナック・マック・フィーグルズという、はた迷惑なご一行さん、もうサイコーです。シニカルで憎まれ口ばかり叩く、でもとても頼りになる魔女のミス・ティックおばさんとヒキガエル氏のコンビの掛け合いも、とても楽しいです。

 それから、児童文学の形態をとってはいますが、作者は読み手のことをぜんぜんコドモ扱いしていない。コドモをまったくなめてかかっていない、容赦ない物語構造もまた、とても好感度が高いです。
「夢の中には夢を見ている自分がいて……」という、オトナ向けになると「メタフィクション」と呼ばれてしまう、入れ子状の構図が出てきますが、メタというものは別にそこまで難しいことではなく、コドモにも十分認識されうるものです(というのは、たとえばすでに古典となりつつある安野光雅の絵本「あけるな」など思い出せば、充分、この手の構造を理解できているのではないか、とわたしは思うのです。)
 まあ、要は、コドモだって、なめたもんじゃないってことですよね。
 コドモの頃だって、このくらい読み応えあるものを読むのは絶対面白かっただろうな、これを子供の時代に読める現代のコドモ、ちょっぴりうらやましいな、などと思いながら読みました。

 SOG賞という観点からは、わたしは本作を大賞に推しました。
 先述の「自分でやりたい」の部分を「女の子扱い」という言葉と置換すれば非常にわかりやすい、普遍的な問題が、作品の中に組み込まれていると思ったからです。

 現代作品として、ケッコン問題や、セックスすら(「交尾」の認識で)扱ってたりもするのですが、いずれもあっけらかんとしていて、邪念の入り込む隙がなく、語り手の力量を感じました。
 また、翻訳の与える印象も大きいのではないかと思いました。
 上品ですがすがしく、健康的で適度にえげつなく、おどけてみせることと媚は本来別個のものであること、この両者を健やかに切り分けてある鮮やかさに素直な喜びと信頼を感じながら、最後まで楽しく読みました。

 最後に、ティファニーがエイキングばあちゃんに贈った「陶器の女羊飼い」をめぐる一連のエピソード、これも、とても素晴らしいと思います。
 ティファニーはぐるぐるとこのことについて考えますが、結局、ばあちゃんは、それらをすべてわかった上で、本気で気に入ってくれたんじゃないかな、と今の(オトナになってしまった)わたしは思います。でも、きっとこの物語のティファニーは、当分、この像のことを気にしているでしょうね。ふだん意地っ張りで、意志の強いきかん気さんですが、心の奥にとてもデリケートなやさしい部分がある。これも、なんだかとてもおぼえのある感触でした。
 自分の中のそのような部分、それは「他者について考えて、本気で思いやる」心だと思います。大人になると、また別の側面から物事が見えるかもしれませんが、でも、これはとても大切な感覚だと思います。他者の痛みについて、子供は敏感だと思います。オトナになると、この感覚、他人の痛みについての感覚を、少し忘れがちになってしまう、そんな気がします。このデリケートなやわらかさを忘れないようにしたいなと思いました。

2006年度 海外部門 最終選考作品と講評

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