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2005年度 第1回Sense of Gender賞 海外部門 候補作

アン・ハリス『フラクタルの女神』河野 佐知訳(創元SF文庫)
Anne L. Harris , The Nature of Smoke

やすこ(ミュージシャン)

 どれか一作に投票を、と言われてこれほど悩んだことはかつてありません。一言申し述べる機会をいただきましたので、ひとつ『ヴィーナス・プラス・X』と『フラクタルの女神』の併読をお勧めしたいと思います。

 『ヴィーナス・プラス・X』では「A(アナログ)フィールド」という原子構造(?)を自由にあやつる技術と「セレブロスタイル」という脳に直接知識を定着させる技術をもって、エネルギー・生産・教育の問題から自由になった世界で、両性具有の人々が平等で協調性に溢れた平和なユートピア的社会を築いている様子が描かれます。ここには男女の差異も階級の差異も宗教の差異もありません。逆に、ここまで平等な世界が築かれなければ差異というものは解消できないのかと戦慄しつつ、SF的物語に時折差し挟まれる現代の当たり前のアメリカン・ファミリーの生活を「客観的に」眺めることを要求されながら読み進めていくのは、とても刺激的です。読者は否応無しに(とても楽しく)ジェンダーの問題を「客観的に」考えることができます。
 一方、『フラクタルの女神』は男女の差も貧富の差も息苦しいまでに劣悪なディストピア的近未来が舞台です。その中で、複雑な自然現象も方程式で表せるという「カオス理論」を研究し、部分と全体が自己相似になっているという性質を持つ「フラクタル図形」を愛する女性分子生物学者が、研究の結果として“自分とあらゆる世界の本質的な結びつきを真に理解”する能力を手に入れます。そしてこの能力は…ある条件の元で感染します。感染が拡大していけば、人々はエネルギー・生産・教育といった人間社会の問題よりももっと直接に、世界そのものに触れる感覚を「内在化」させることになります。その可能性はラストの衝撃的な現象によって保証されます。感染が拡大するところまで物語は描かれませんが、世界真理を「内在化」させることで価値観の転換を要求する『フラクタルの女神』を味わうことは、これまた刺激的なのです。
 人間社会を技術によって平等にすることで価値観の転換を図る『ヴィーナス・プラス・X』と、社会を通り越し世界そのものと接続することで価値観の転換を迫る『フラクタルの女神』。
 どちらの方法も現代社会で実際に実現するのは不可能です。しかし、様々に思いを巡らせることは可能です。
 ジェンダーを二つの対照的な手法で眺められる希有な好機だと思います。ぜひご一緒にお楽しみいただきたいと思います。(や)

柏崎玲央奈(SFレビュアー)

 搾取され底辺層で生きる人々の物語。女性の場合は身体を売るほかない。男性はその女性をさらに搾取する。このような状況ではとてもじゃないが、愛など育たない。家族という、生まれたときからともに育つことを運命づけられた共同体は悲劇の温床にしかならないのか? 不幸のスパイラルを解く鍵はなにか? マグノリアの個性が、シドの知性が、ローズの母性が、世界を変える。SF的な仕掛けはあるが、その根底にあるのは本当に単純な法則だ。精神的な自立と共感。その間に初めて依存ではなく愛が成立する。(柏)

2005年度 海外部門 最終選考作品と講評

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