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2011年度 第7回Sense of Gender賞 海外部門最終選考作品

スコット・ウエスターフェルド 『リヴァイアサン
クジラと蒸気機関』
小林美幸 訳〈新☆ハヤカワ・SF・シリーズ〉
Scott Westerfeld, Leviathan

スコット・ウエスターフェルド 『リヴァイアサン クジラと蒸気機関』リヴァイアサン クジラと蒸気機関(ハヤカワ文庫SF)

内容紹介(「BOOK」データベースより)

1914年、ヨーロッパではふたつの勢力が拮抗していた。遺伝子操作された動物を基盤とする、英国などの「ダーウィニスト」と、蒸気機関やディーゼル駆動の機械文明を発達させたドイツら「クランカー」。両者の対立は深まり、オーストリア大公夫妻の暗殺につながった…。両親を殺した一派に追われる公子アレックと、空への憧れから男装し英国海軍航空隊に志願した少女デリン。ふたりの運命は、やがて巨大飛行獣リヴァイアサンで邂逅する。奇妙なテクノロジーが彩る第一次大戦下の世界で、少年と少女の成長と絆を描く、ローカス賞受賞の冒険スチームパンク三部作、開幕篇。

小谷真理(SF&ファンタジー評論家)

本書もまたスチームパンク作品だ。19世紀の大英帝国下で進化論を提唱したダーウィンが、遺伝子組み替え技術を発明し、かくして英国では遺伝子改造獣による技術文明が開花するという設定で、機械派の巣窟たる欧州ドイツと、生物派である英国とのイデオロギー闘争を背景に、第一次世界大戦勃発期における元気な少年少女の活躍を描く。ツンデレ女性科学者、男装の少女、深窓の貴公子と、性差が逆転したかのようなキャラクター造詣が光る。

キャリガーもそうだが、スチームパンクにジェンダーパニックはよく似合う。というか、スチームパンク作品で、ありえないような19世紀を描くには、必然的に性差の問題ははずせないのだろう。ローカス賞受賞作。

おのうちみん(Webデザイナー、ジェンダーSF研究会会員)

第一次大戦の歴史改変ものということなので期待して読んだ。おもしろいけど1では全然終わっていないので、三部作おわってからの評価でよいと思う。男装少女デリンがどうも、少女っぽくないというか、いかにも男性が書いた「男の子になりたい女の子」という感じでどうもあまり魅力を感じなかった。19世紀の実在の男装のロシア軍騎兵本人の手記『女騎兵の手記』(N.A.ドゥーロワ)とか『風光る』なんかと比べてしまう。男子社会の張り合いを冷めた目でみているところはよいのだが、やはり女性の身体的な面倒臭さがあまり書かれていないと、ぬるいなと。

ボンボン王子のアレックや科学者のほうが魅力的なキャラクターで、続編でどこまで化けるか? という気持ちで、現段階の評価は保留です。

個人的にフェルディナンド大公の三人の子供をいないことにしたのが不満。戦争中和平交渉してた次の大公カールは出てくるんだろか?

石神南(カフェ・サイファイティークスタッフ兼ハカセ、ジェンダーSF研究会会員)

「生物スチームパンク!『リヴァイアサン クジラと蒸気機関』」

科学に興味を持った子どもはやがて、「星」派(物理)と「恐竜」派(生物)に分かれると何かで読んだ。

ならば、機械工学を発達させウォーカーマシンを操るオーストリア=ハンガリー帝国のクランカー達は「星」派で、クジラをベースにしたと思しき飛行獣の内部に乗り込み、空を駆ける英国のダーウィニスト達は「恐竜派」だろう。

時は1914年、男装して英国海軍航空隊の入隊テストを受け、抜群の飛行獣操縦センスと度胸、そして運命の悪戯から「生きた」戦艦リヴァイアサンに乗り込むことになった少女デリン。そして、オーストリア皇太子の貴賎結婚によって生まれた「忘れられた王子」としてひっそりと生きていたが、両親の暗殺で命を狙われる身となり、臣下の手引きで城を脱出したアレック。

ここまで読んで「男装少女と皇太子~?  ボーイミーツガール物か~」と思った貴方、私もそう思ったが、その展開は正直いってどうでもいいので置いておくw

これは「恐竜」派だった、あるいはその領域に属する人々に贈る物語である。

ダーウィンが、進化論に留まらずDNAの発見にまで到達した世界で、遺伝子改変された獣を作り出し使役する英国のダーウィニスト達。最後にその正体が明かされるバーロウ博士の優雅な(女性ですから)マッドサイエンティストぶりを堪能するもよし、空飛ぶ飛行船クジラが、事故で機械の推進力を装着させられて新しい飛行能力に喜々とする様を愛でるもよし、絶滅動物に涙したことのある方なら、バーロウ博士のコンパニオンアニマルであるタッツァ(タスマニアン・タイガー)にちょっとだけホロリとするもよし、ともかく、「スチームパンク」を名乗りながら(確かにアレック陣営の逃亡の日々はザブングルっぽくてよろしい)、生き物好きにはたまらない仕掛けがいっぱいの物語である。

最後に、翻訳者が流行らせたいらしいw、作中の「バーキング・スパイダーズ!(ざけんな、くそっ、的な言葉)」をヤバイ、的なホメ言葉として、この作品に捧げたいと思う。

さあ皆さんご一緒に、Barking spiders!

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