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2022年度 第22回Sense of Gender賞講評

福地あゆみ(会社員)

高野史緒『カラマーゾフの兄妹 オリジナルバージョン』〈盛林堂ミステリアス文庫〉

ミステリーとして面白く読ませていただきました。

意外ながらも納得できる犯人像と謎解きはもちろん、モルダー捜査官と重ねられたイワンのキャラクターとその過去にまつわる謎解きも読んでいてワクワクしました。

松崎有理『シュレーディンガーの少女』〈創元SF文庫〉

今回の候補作の中では比較的SFらしさが強い短編集だったように思います。一方で、ジェンダーという観点においては特徴がなかったように思うのが選考の場では残念でした。

「秋刀魚、苦いかしょっぱいか」は明るい作風で、失われた秋の味覚を再現していく様子はちょっとした謎解きのようで特に楽しく読めたと思います。

白川紺子『後宮の烏』全7巻〈集英社オレンジ文庫〉

後宮に居ながら性的役割から切り離された主人公は長く孤独であったために、ジェンダーが非常にニュートラルで読んでいて新鮮でした。

例えば、女性用の服装で着飾ることに対しても、男性(宦官)用の服装で出かけることに対しても、服装に対するリアクションは利便性が主で、女性らしさや男性らしさに対する好感や嫌悪の描写もありません。

ニュートラルな状態から徐々に周囲のジェンダー感に染まる、あるいは反発するストーリーは度々見てきましたが、この作品ではそのように展開せず、主人公がニュートラルなまま男女の性愛によらないパートナーシップを築き上げる点が良かったです。

菅野文『薔薇王の葬列』全17巻〈秋田書店プリンセス・コミックス〉

主人公が立場上、あるいは目指す地位上で求められるジェンダー役割と、愛を得る上で求められるジェンダー役割に多重に絡め取られ次第に身動きが取れなくなり破滅に向かう姿が主題だったように思います。

主人公や中心キャラクターに限らず登場シーンの少ないキャラクターに至るまで、それぞれのキャラクターが強く印象に残るのが素晴らしかったです。

映画『PLAN75』早川千絵監督作品

淡々と自律的な生活を送る主人公が年齢を理由に仕事を失い、住む場所を失い、友人とも死別する一方、娘や孫が健在である元同僚は仕事を辞めた後も孫のベビーシッターという居場所を見つけているという状況が印象に残っています。

年齢による線引きというテーマを際立たせるためか、どの登場人物も他者の害意や悪意に晒されることはありません。ただ主人公は礼儀正しく断り続けられ、住む場所も仕事も見つからない。そんな状況を美しい映像で見続けることでゆっくりと胸が詰まるような作品でした。

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