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2011年度 第11回Sense of Gender賞講評

高世えり子(漫画家)

●総評

 今回の候補作5作品を拝見した際、娯楽アニメあり、どファンタジーあり、様々な作風の作品という印象でしたが、ジェンダー賞という切り口からみると、テーマは「普通の女の子の生き様」という事が浮かび上がりました。

 私は少女漫画誌の四コマでデビューさせていただいたのですが、デビュー前の投稿作の頃から「“普通の女の子”を描け」と編集さんに言われるものの、なかなか自分の中で消化して漫画に落とし込めず、悩んだりしていました。なので、私にとって今回の候補作はどれも勉強になりました。

 5作品ともそれぞれ素晴らしい作品で、選評会では当初意見がバラバラでしたが、最終的にSOG賞の名にふさわしいものはどれかという観点で、賞を選ばせていただきました。

●大賞

川原由美子『ななめの音楽I』『ななめの音楽II』は、戦闘機と少女という対比が、とても美しい画面で描かれた幻想的な作品です。セリフや心理描写も詩的で、外国の映画の様です。実在した戦闘機が緻密な筆致で描かれ、それに乗り意味を見いだして行く少女は、男性社会に乗り込む女性像を思わせます。戦闘機に乗る少女、乗らない少女の対比が、ジェンダー論を大変深く考えさせてくれることから、大賞に推させていただきました。

●シスターフッド賞について

TVアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』 監督:新房昭之粕谷知世『終わり続ける世界の中で』は、表面的には全然異なるジャンルの作品ですが、「ごく普通の女の子が、世界を救おうとする」というテーマが共通していることから、2作品を一緒に味わうと双方で違った見方ができて面白いのでは、ということでシスターフッド賞となりました。

『魔法少女まどか☆マギカ』は、魔法少女という一般名詞の持つイメージを逆手にとり、少女達の悲劇をこれでもかというほどグリグリ描いた作品でした。最初から最後まで無駄の無いストーリー展開、画面、音楽とアニメーションの持つ表現力のフルパワーを目の当たりにしました。まさに圧巻の一言です。「少女」の醸し出す脆弱性を悲劇的に描いた名作ですが、ジェンダーの切り口としては少女の悲劇一辺倒ではなく、少しでも前向きな答えや希望があれば……と思いました。

『終わり続ける世界の中で』は、ノストラダムスの大予言に大きな影響を受けた少女が、まじめに懸命に自分の生き方を探って行く物語で、歴史的な事件が出てきてはリアルさを感じられました。子供時代から丹念に描かれる主人公に親近感を感じ、その時代を想起させられる作品です。沢山の人の生き方に翻弄されて翻弄されて、ラストシーンで主人公なりの答えが浮かんでくる様は、とても真摯な筆致です。子供の頃の影響を引きずりながらも大人の女性として生きてゆく第4章以降が、個人的には読み応えがありました。

萩尾望都『音楽の在りて』は、珠玉の短編小説集。30年前のSF小説でも、古さは感じませんでした。この時代のSFには勢いや熱気が感じられるので、個人的にとても好きです。ただ、やはり萩尾望都先生は漫画でこそ、ということから選外になりました。

東直子『私のミトンさん』は、普段ファンタジー小説を読まない私を、どっぷりとミトンさんワールドに引き込み、ほんのり酔わせてくれた作品でした。文体が面白く、セリフ回しもキャラクター感を出していました。賛否両論あると思いますが、個人的には楽しい作品でした。浮世を離れてふわふわとした気分になりたい時におすすめです。しかし、ジャンルがSFというよりはファンタジーということで、選外になりました。

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