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2007年度 第3回Sense of Gender賞 海外部門最終選考作品

ジョー・ホールドマン『擬態―カムフラージュ』
金子 司 訳〈早川書房〉
Joe Haldeman , Camouflage

ジョー・ホールドマン『擬態―カムフラージュ』

内容紹介(「BOOK」データベースより)

〈海外SFノヴェルズ〉ネビュラ賞/ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞受賞! 2019年、太平洋の海溝で謎の人工物が発見されたが……不死の異星生命体〈変わり子〉と人類との出会いをスリリングに描く話題作!

島田喜美子(〈ガタコン〉代表)

2007年度のSOG賞、海外部門に本書を選んだのは昨年選んだシオドア・スタージョンの『ヴィーナス・プラスX』と同じような匂いを感じたからにほかならない。『ヴィーナス・プラスX』が人間が自分の優位性をたもつために他者を差別し、自分より弱いものを虐げたり、攻撃したりすることを語っていたのに対して、本書は自分とは異なるもの、別のもの、未知のものに対する人間の残虐性や攻撃性を語っていると思われる。

本書『擬態―カムフラージュ』は地球の人類の中に、カムフラージュして棲む異星の生命体を扱ったSFだ。

本書に出てくる〈変わり子〉や〈カメレオン〉はわたしたちのすぐ隣にいるかもしれない。みつからないようにわたしたちをじっと観察して、わたしたちの思考や行動を読みとって真似ながら。

2体の生命体〈変わり子〉と〈カメレオン〉ははるか百万年前、それぞれ別個に地球にやってきた。長い年月地球の生命にカムフラージュしながら生きてきたそれぞれの個体だが、当然のこととして食物連鎖の頂点にある人類に姿を変えた。

〈カメレオン〉はいつの時代も戦士であり快楽を求めた。

〈変わり子〉は知識を吸収することに喜びを見出した。

どちらも人間を観察し、人間に学んだのだが、〈カメレオン〉は銃を持った白人に奴隷に対する扱いを学び、さらには人体実験で名高いナチのメンゲレとともに働き“大虐殺計画”に加担し、それを楽しむ。(もちろん、ナチはアウシュビッツでユダヤ人を虐殺した。自分たちとは別の民族だということで。)

一方〈変わり子〉は学生として大学から知識を学んでいった。

違っている(地球人ではない)ことをひたすら隠し、人類の中で生きていく〈変わり子〉。そのためには身にふりかかる残虐さも受け止め、やがては愛をも学んでいく。(〈変わり子〉は第二次大戦時バターン死の行進に巻き込まれる。日本軍によるアメリカ兵捕虜(外人)への残虐行為といわれる多数の死者を出した行進だ。)

残虐さと快楽を求めること、他者に学び、愛をはぐくむこと、まったく違った2生命体の姿勢は人間の二つの側面だ。2体の異星の生命体は地球でそれぞれまったく反対の態度を学んだのだ。

さらに、ラッセルたち海洋学の専門家は海底から引き揚げた未知の人工物を傷つけるために叩いたり、削ったり、熱を加えたり、あげく、場合によっては、その人工物のためにサモアの島ひとつを丸ごと消滅させてしまおうかとも企む (しかし、それを動かすことが出来たのはそういった暴力ではなく歌であった)

別の民族(ナチのユダヤに対する)、別の国(日本のアメリカに対する)、未知のもの(未知の人口物)、本書においてわたしたちは3つのパターンのキセノフォビアとその結果としての人間の残酷さを見る。

そして、「外人嫌いっていう観念も知っているし。(中略)自分がほかと違うというだけで自動的に憎まれ怖がられるんだから」「あたし以上に”違っている”者なんてこの星にひとりもいないもの」(P.323)と〈変わり子〉がいうように、異星の生命体は地球にあっては外人嫌いの対象だ。何故ならば、わたしたちがちょっと他人と違っているのとはケタが違う変わりようなのだから。ゆえに〈カメレオン〉ですら、人類にカムフラージュして生存してきたのだ。

外人、外から来たもの、未知のものを怖がり、それゆえ排除したり、攻撃、虐待するキセノフォビアを人類全体が持っていることを教えてくれる一冊である。

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