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2007年度 第3回Sense of Gender賞 海外部門大賞

大賞
ウェン・スペンサー『ようこそ女たちの王国へ』
赤尾 秀子訳 (ハヤカワ文庫SF)
Winners of the Sense of Gender Award in Translation 2007
Wen Spencer , A Brother's Price

大賞 ウェン・スペンサー『ようこそ女たちの王国へ』

内容紹介(「BOOK」データベースより)

極端に男性が少ないこの世界では、当然ながら女王が統治し、兵士も職人も何から何まで女性中心だ。一方男性は貴重な存在のため、誘拐などされぬよう姉妹たちの固いガードのもとで育てられていた。ウィスラー家の長男ジェリンはもうすぐ16歳。ある日、盗賊に襲われた娘を助けたところ、彼女は王女のひとりだった。迎えに来た王家の長姉(エルデスト)レン王女は、生来の美貌のうえ心優しいジェリンにひと目ぼれ、ぜひ夫にと熱望するが……。

石神南(カフェ・サイファイティーク スタッフ兼ハカセ)

まっとうな、きわめてまっとうな物語−「ようこそ女たちの王国へ」−

特定のジャンルを読み込んでいくと、「もっと技巧派な、マニアをうならせるような小説が読みたい」と思いはじめることが多いのですが、そんなすれっからしの読者になっても、というより、だからこそ時々、テーマを前面に押し出した、直球勝負な小説が読みたくなります。

「まっとうな、きわめてまっとうな物語」。「ようこそ女たちの王国へ」を読み終えたとき、そんな形容が頭に浮かびました(もちろん、趣向をこらした小説が邪道、という意味ではありません)。

男子の出生率が極端に低下した世界(よしながふみの「大奥」と異なり、その理由は語られない)。主人公は、ウィスラー家の大事な「財産」である男の子ジェリン。あとふた月で結婚年齢の16歳になろうとしている。どこの家に結婚相手(種馬?)として売られるのか、戦々恐々であったり、ちょっぴり期待していたり。でも今は、28人もいる姉妹のうち、年若な妹たちの面倒を見たり、きつい姉に殴られたり、大量の食事を作ったり、の日常。

そんなある日、ウィスラー家の放牧場で、ならず者達が女兵士を襲撃するという事件が起こります。襲われた女兵士が怪我をしたまま放置されている、ウィスラー家の敷地内だ、放ってはおけない、と、ジェリンは姉と連れだって、女兵士を助けに行きます。

この世界では、数少ない男子は、荒事をするどころか、外にもあまり出してももらえないのが常ですが、ジェリンは姉たちとともに戦闘訓練や馬術の訓練などは受けている様子が伺え、それが、徐々に明かされる、近隣の農民とは違った、ウィスラー家の特異な成り立ちへの伏線となっています。

ジェリンが助けたのは、この国の第三王女でした。ハンサムで、礼儀正しいジェリンに王女は魅かれていき、しかし、ジェリンと姉妹たちは、王室を巡る陰謀に巻き込まれていきます… そして、最後はもちろん(ハート)

「良い人」、「悪い人」、「良い人とみせかけて悪い人」、「悪い人や頑固な人だったけど、改心して良い人になった」等のキャラ設定がきちんとしているのが、「まっとう」感の理由でしょう。ヤングアダルトとして売ってもよい小説だと思います。

私は「子どもに道徳を植え付けるために」小説を読ませたりするのは好きではないのですが、「ようこそ女たちの王国へ」は、ある理由で、ティーンの、特に女子に読ませたい、と思いました。 「性病(性感染症)は恐ろしい」という理が、小説の中に息づいているのです。女性も男性も、とてもその認識が強い。もちろん、医学があまり発達していない設定である、ということ、「繁殖こそが男(と家を継ぐ女)の使命」という考えが物語の軸としてある、ということがあるにせよ、現代の日本においても、一部の性感染症については、完治することはない、非常に治癒しにくい、という医療の限界がある以上、若い人には、ジェリンを見習って(?)もっと慎重にふるまってもらいたい、と説教くさく思ってしまうのです。

−ここからネタバレ−
ラストでお約束の、
「主人公の男性が、複数のヒロインのうち、誰を選ぶか?」
というドキドキの結末はありませんでした。

男性の少ない世界なので、一夫多妻制なのです。だから、ジェリンは、心ときめいた王女たち全員の夫になったんです! ある意味、とってもさわやかでした♪

立花眞奈美(SF同人誌「科学魔界」編集)

女が圧倒的に多いことになったらどうなるだろう?一つの答えがよしながふみの『大奥』なら西洋から来た答えがこの『女たちの王国へようこそ』だ。

『大奥』では将軍は男たちを独占できたが、下々の女は花街に男を買いに行ったり、男は流しで子種を売り歩いたりしている。が、『女たちの王国』では夫を数人の姉妹で共有することにしたようだ。また下々では同じように淫売宿や売春夫を利用して子どもを持つものもいる。

さて数が減ってしまった男たち、家の中でそれはそれは大事に育てられ身ぎれいにするように仕込まれる。人数が少ないので外に出ることも減ってくる、なぜなら誘拐されたりもするから。お金がないうちでは貴重な売り物にもなる(婚資めあて)。深窓の令嬢ならぬ深窓の令息が生まれることになる。外へ出て行く女たちに代わって家の中を取り仕切り、料理をし、妹たちや(もし生まれれば)弟たちを子守りする。一人で外出なんてとんでもない、女性の前へ出る時には姉妹が付き添わなければならない。一体なんて世の中?でもこれってちょっと前まで私たち女性がされてたことじゃない?前世紀までは付き添いがいなくちゃ外に出られない、とか。女は家にいればいい、とか。家事一切を取り仕切れ、とか。年齢になったら花嫁市場に売りに出される、とか。なんと女の純潔は問題にされず、男の純潔は大問題なんだから。(病気をうつされたりするからね)

こうして男女が入れ替わった世界を見るといかに滑稽かがよくわかる。

まるっきり男女が入れ替わっているのだ。男は奥にいて家を守り妻たちに仕え子どもを産ませる。そして適齢期になれば女たちに見つめられてポッと頬を染める。その時、肌は白くなければならない、髪はさらさらとしていなければならない。なんと女の純潔は問題にされず、男の純潔は大問題なんだから(病気をうつされたりするからね)

アメリカで出版された時には男女比が変わっている理由が物語中描かれていないとか、作中に出てくる歴史的事実がちゃんと描かれていないとかで、評価はあまり高くなかったそうだが、私はあまり気にならなかった。そういう世界なのだ、男女比が圧倒的に女が多く男たちは女たちの庇護下にある、それが大前提なのだ。男たちを存分におちょくることができる快感とともに馬に乗り銃を構える爽快感を味わえる。

しかし、考え直すと男女比に大きく差がつかないと女たちは男たちとの関係をひっくり返せないのだろうか?男たちが女たちの庇護下に入るようになるまで、どのくらい時間がかかり、どのくらい男たちが減っていったんだろう?

センス・オブ・ジェンダー賞海外部門の投票の時に迷わずこの本に票を入れた。なぜなら社会における男女の役割を考えさせる教科書のようだったから。初心に戻されるような感じだったからだ。

福島かずみ(和装愛好家 コスプレイヤー)

このお話、もし主人公が女性だったら、まさにお伽話かハーレクイン・ロマンス。

そして、その後は、皆が仲良く幸せにくらしましたとさ……。

というハッピー・エンドが、読んでいる途中で、完全に予測できるのですが、それでも、突然の出会いと別離、山野での冒険、宮廷生活、恋の駆け引きと、ストーリーの運び方が上手いので、最後まで飽きずに読み通すことが出来ました。

作中の主人公の描写を読んでいると、人間の長所とか美点というのは性別に関係がなく、男女共有なのが良く分かります。

容姿が美しいというのはまあ置いておくにしても、弱者に対しての優しさ、他人への配慮と思いやり、勇気ある行動力と、自制心や責任感を持つこと、これら備えた人は、男女を問わず、魅力的なのだということですね。

読了感が良いので、広範囲にお奨めできるお話だと思いました。

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