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2005年度 第1回Sense of Gender賞 海外部門 候補作

タニス・リー『ウルフ・タワー』(全4巻)中村 浩美訳(産業編集センター)
Tanith Lee , The Claidi Journals Law of the Wolf Tower (US title: Wolf Tower),Wolf Star Rise (US title: Wolf Star),Queen of the Wolves (US title: Wolf Queen), Wolf Wing

立花眞奈美(主婦)

 タニス・リーの書く世界は耽美なだけではありませんでした。
 本屋で偶然手に取ったこの本は、リーがラノベを書いてる!というだけで読んでみようと思ったのです。

 読み始めると初めはシンデレラ物語かと思わせ、次に女の子一人に男の子二人の三角関係と見せて、実は大どんでん返しという思わぬ拾い物のような物語。

 主人公の女の子クライディは狭い隔絶された世界の中で貴族に使えるメイドとして登場します。
 その奴隷にも近い環境の女の子がだからこそ、全てを縛る掟に対して疑問を持ちその掟を次々と破る、というより壊していきます。
 支配している貴族層も掟に縛られ,それ以外の生き方を考える余裕もない生活を何も疑問を持たずに生きています。
 そんな世界にチラチラと見え隠れするゲームメイカーのような存在は?
 魔法はないのに魔法のような科学が物語に厚みとナゾを添えていきます。

 ジェンダーという目で見た時に、このヒロイック・ファンタジーならぬヒロイニック・ファンタジーは私に「すごいよ、女の子!」と思わせるものでした。
 世界は男性ではなく貴族階級の怪物のような老女たちによって支配され、影の薄い男たち。
 元気のいい女の子に比較的自由に動ける遊牧民族。
 典型的なファンタジー世界を裏返したような世界です。まさにジェンダー的。
 それまでの物語と同じように英雄流浪潭を踏み登場人物はそれによってナゾを解き成長して行きます。
 そして力を振るっていると思われた貴族たちが実は同じように掟に縛られて行動していることを知ります。
 奴隷のように扱われていた少女は閉じ込められていた狭い世界から解き放たれ、望む望まざるに関わらず多くの世界を体験し、その行く先々で他の登場人物を解放して行く。

 読み進んでいるうちにすべてをお膳立てしたような、計画を立てたようなゲームメイカーとも思えるナゾの人物が出てきますが、彼女が実はクライディのようになりたかったのに掟を壊しきれずにいたというのがわかります。
 力を持っているのは男性ではなく女性、なのに。
 それでも英雄になるにはなるための条件が必要なことは以前の物語からも語られていることですが、この物語でも最後にその条件が語られます。
 価値観が変わるのは今だけではない、ずっと昔から何度も同じように世界は入れ替わってきていた、それを繰り返して歴史は続いてきた。
 ではまたいつか世界は同じように、やがて新しい英雄が現れて世界の入れ替わりが起こるのだろうか?
 入れ替わった人々とクライディには決定的に違うことがありました、そしてこれこそが彼女をユニークにし英雄足らしめているものでした。

 私はSOG賞海外部門には「ウルフタワー」に一票投じたのですが、
 他の候補作と違うと思ったのはこの物語はジェンダーと言う問題を提起するだけではなく、そこから一歩進んでその世界を覆してしまうところまで描かれていたところでした。女の子は新たな価値観を人々に与えていくのです。(眞)

2005年度 海外部門 最終選考作品と講評

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