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2003年度 第3回Sense of Gender賞講評

島田喜美子(GATACON 代表)

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寸評

『水晶内制度』笙野頼子

 女だけの国家「ウラミズモ」の建国に成功した笙野氏にまずは拍手。しかも保護牧まで作られて。当初、男に対してここまで過激でいいのか、と思ったが、いいのだ。笙野さんだから。いっそすがすがしささえ感じるのは、媚びない一貫した笙野スタイルがあるからだと思う。

『ヴァルキュリアの機甲』ゆうきりん

 ライトノベルズの作品とは思えない、過激でリアルな出産シーンにびっくり。巨人の少女が出産する、しかも異形の神話の怪物を。そして、そのシーンをみんなでモニターでみているというかなり、進んだお話。出産シーンをきちんと押さえて書き込んだためか、巨人少女たちの乙女ちっくで甘甘の描写がウエハースのように軽くて楽しい。

『マルドゥック・スクランブル』冲方丁

 九死に一生を得て、自分を殺そうとした男に復習を誓い、男の雇う殺し屋と戦う少女娼婦パレット。世間的には弱者である彼女の戦いへの決意はかっこよすぎるくらいかっこいい。そして、ウフコックの愛を求めるバロットは切ないくらいいとおしい。彼女が愛する彼女の相棒、彼女を守るウフコックはかっこいい。そう、王子様は別に人間の男でなくてもいいのだ、かっこよければ。ねずみだってかまわないのだ。

 また、守るジェンダー、守られるジェンダーと考えた場合、守るウフコック、守られるバロットは簡単にスイッチするし、強い男という役割のボイルドも簡単に(ただ、戦うための)哀れな男という役割を演じさせられる。
そう、ジェンダーはあっけなく反転するのだ。

『大人は判ってくれない』野火ノビタ

 ジェンダー的には女性のやおいを論じた『「やおい」とは何か?』および女性のやおいと男性のおたくを対比した『斉藤環氏との対談』が本来なのだろうけど、個人的には「なぜエヴァに乗るのか? ?『新世紀エヴァンゲリオン』と『デビルマン』」がツボ。

 ヒーローは公人として世界を守らねばならない。が、一個人としての,私人としてのヒーローもいるわけで、世界と恋人とどっちが優先? といった問題をヒーローは常にもっていて、つらいよねー、と思っていたので、この二つのアンビバレントな役割の間で苦悩するヒーローについて触れるこの章は、ヒーローのジェンダーを考えるとともに、そのスイッチングはどのあたりか、とか考えさせてくれて楽しい。

『サウンド・トラック』古川日出男

 スイッチングといえば、サウンド・トラックの登場人物は適材適所といわんばかりに自分の性をスイッチングして演じる。面白いのは性が先にあり、そこにが付随するのではなく、そこにあるを性を使い分けていること。

 ジェンダーはもっているものではなくてプレイするものであったのだなと考えさせていれる。

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