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2002年度 第2回Sense of Gender賞講評

島田喜美子(GATACON 代表)

『傀儡后』を推します。

『傀儡后』 大阪に隕石が落ちて20年、世間には「麗腐病」と呼ばれる奇病が流行る。それは皮膚が繊維化し、やがてゼリー状になる病だ。 少年が少女として娼館に拾われて働かされたり、失踪した女性が実は女装の男性だったり、男性として登場した探偵がじつは両性具有だったり、そして留めは傀儡后の○○ちゃんが男性だったりと、登場人物のジェンダーをことごとく振り回して撹乱させてくれる。
七道桂男に「皮膚こそ人間性のすべて」といわせる作者は皮膚にこだわる。あるいは小道具として出てくる人工の皮膚である人工繊維を使ったスキン様のスーツに。スーツを着用することにより、人間は変容する。男から女にあるいは虎に。皮膚が内部を規定する、すなわち外部が内部を規定するとは、人間の世界との関わりは皮膚一枚での出来事だということか。言い換えれば、ジェンダーとは身にまとった皮膚一枚をめぐって世界が自分を規定することか。
個について(内面について)のジェンダーから離れて、外部を覆う外面が内部を規定するという考え方が面白く、また自由さを感じます。ぜひジェンダー賞をとっていただきたい作品です。

『両性具有迷宮』 シロクマ型宇宙人のミスでおちんちんの生えてしまった(エッチなことをすると消える)主人公森奈津子が殺人事件の犯人を追うというポルノチックなミステリ。実在の作家、森奈津子氏という設定の主人公キャラは、一緒に宇宙人の被害にあった美女たちが次々と殺されていくという事件の犯人捜しに乗り出す。が、そこは森奈津子氏、同じく宇宙人の被害にあったうら若き乙女のコネコちゃんとレズビアンな関係をもちつつ、彼女の小説の中では奥様にメロメロにされたり、おやじキャラ丸出し男には女王様よろしく手錠とムチでヒイヒイ言わせたりと行動的。
そんな彼女の信条は「人間は性愛関係においてそれぞれの役割が固定されているわけではありません。SでもありMでもある。レズでもありバイでもある。それがわたしであり、役割が決まるのは、あくまでもそのパートナーとの関係次第。」
そして彼女のトランスセクシュアル・レズビアン、トランスセクシュアル・ゲイについての薀蓄も読みどころ。いやー、お勉強になります。
 もちろん謎の美女連続殺人事件の謎ときだってお約束です。
 ジェンダーなど軽がると乗り越えてセックスしまくる主人公森奈津子は読んでいて清々しささえ感じさせます。
ジェンダー的にもミステリ的にもポルノ的にも楽しめる、とってもお得な一冊でした。

『妻の帝国』 まるで内職のようにたんたんと文書を作成しては発送している妻。主人公わたしの知らないところで妻は自分の帝国を築き最高指導者として通達を作成しては発送していたのだ。
アンダーグラウンドで着々と発展を続ける妻の帝国とその帝国を支える無道大儀ら民衆細胞。主人公わたしを含む一般社会の人々と帝国を形成する民衆細胞の二者の対比はまた、妻不由子とわたし、おかあさんと無道大儀のまったくかみ合わない世界観というか価値観(けっこう笑える)にも通じて示唆的です。後者が男女間で日常よくある光景であることを考えると結局世界観の共通しない二者の間の物語として読め、ジェンダー的に面白いです。

『海を見る人』「母と子と渦を旋る冒険」 純一郎くんという名のユニットは恒星間をめぐりさまざまな冒険をしてその情報をお母さんに届けるのがその仕事だ。ふとしたことで渦にとらえられた彼は渦からの脱出を試みぼろぼろになりながら、それでもひたすらお母さんのもとへと戻ることをあきらめない。有益な情報を集めてお母さんのところに戻ればお母さんが喜んでくれると信じて。 そうか、帰還するユニットはマザコン力で成り立っていたのか。 純一郎君の一途さがそう思わさせてくれます。機械には母力が必要なのだって、原住生物を取り込む純一郎君が純粋に機械かどうかは謎ですが。

『宇宙生命図鑑』 謎のピラミッド様の遺跡を持つ、惑星ジパスの博物館で新米学芸員としての採用が決まった主人公芳沢トキ乃の仕事は原住民ヒーラーの文明調査だ。彼女は惑星へと向かうスペースバスの中で「宇宙生命図鑑」の改訂作業に向かう神父アレクと出会う。彼は生命図鑑の中の原住民ヒーラーの欠けたる雄の存在の調査に向かうところだった。
ヒーラーは雌ばかりの単為生殖-クローニングで、幼体が成長すると無骨でがっしりした「兵隊階級」のクシバムになるか、華奢で愛らしい「無生産階級」のヒリとなる。しかし、生命図鑑にはもう一体、滅びさった雄ではないかと考えられるヒスラの名前がうっすらと残っていた。果たして雄であるヒスラは本当に滅びたのか。
原住民ヒーラーの生態(雄雌そして単為生殖のありかた)を構築し、既存のジェンダー感を揺さぶる作品としてとても面白いものを感じました。また、原住民と植民者の間に横たわる問題を物語の基本に敷いているところにこの小説の奥深さを感じさせます。

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